韓国・文大統領が仕掛けた検察改革の危険性 国家情報院の権限も制約、その政治的意図とは

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ろうそくデモによって幅広い国民の支持を得て政権を獲得した文大統領にすれば、こうした積弊を解消し、保守勢力を弱体化させ、進歩勢力=民主勢力が政権を維持する「永久政権論」は当然のことであり、正義であるということになる。

しかし、事はそう単純ではない。

韓国では民主化後、保守派、進歩派を問わず、歴代大統領は全員、本人あるいは家族が逮捕されたり自殺するなど悲劇的な運命をたどっている。検察の捜査対象は表面的にはいずれか一方に偏っているわけではない。

秋法相と対立している現在の尹総長も、保守勢力の李明博、朴槿恵大統領に対する捜査を積極的に進め、「積弊清算に貢献した」として文大統領自身が検事総長に抜擢した人物だ。その尹総長が現政権関係者の捜査に乗り出した途端、政権は一転して尹総長の排除に血道をあげている。

検察の民主的統制をどう担保するか

気に入らない捜査を進める検事総長を排除する政権が、捜査の指揮権を握る公捜処を手に入れた時、はたして政治的中立性を担保した捜査を期待できるだろうか。

大統領がトップを任命する組織が高位公職者だけを捜査するという仕組み自体に、大統領の言う民主的統制との間でそもそも矛盾がある。

検察組織の民主的統制はどの国にとっても重い課題である。そのためには捜査の政治的中立性を確保し、人事が政治から独立し、自律性を持っていることなどが必要となる。そのうえで地道に実績を積み重ねることで、権力の不正を公平、公正に摘発する機関として国民に支持され、信頼されていく。

にもかかわらず、公捜処にはこうした政治的中立性や自律性を担保する仕組みが備わっていない。

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