今回の「欲望の資本主義2021」では、こうした状況を、先にあげたジョナサン・ハスケル他、ノーベル賞受賞の重鎮でいつもユニークな視点を世に問うているイェール大学のロバート・シラー教授、フランスの異才エマニュエル・トッド氏、さらに経済発展や民主制の研究で世界的に知られ最近は新たな経済学のスタンダードとなる教科書を執筆した気鋭のマサチューセッツ工科大学のダロン・アセモグル教授、マイク・サヴィジ氏、グレン・ワイル氏ほかさまざまな世界の知性へのインタビューに、多面的な考察を織り成し考えていく。
無形資産が生み出す異形の資本主義。その運動性を渦巻きにたとえて表現してみたわけだが、渦であるなら中心もあるはずだ。台風ならば、中心は無風にして穏やかな青空が広がっているだろう。
その新たな資本主義の「台風の目」に、冒頭で触れた、静かに揺れて燃える炎をイメージすると言ったら、驚かれるだろうか? 現代に至るまで高度な文明を発展させてきた人類は、今その原点に帰りたいと、どこかで無意識に思っていると見えなくもないのだから。
炎と猫と資本主義 欲望の行方は?
意識か無意識か、原点への回帰を志向する現代人。その視点で、もう1つ重なる問題意識で発案した企画がある。
「ネコメンタリー猫も、杓子も。」まさに「猫も杓子も」猫ブームの中、「もの書く人」と愛猫の日常をそっとカメラで記録、その関係性を描き出そうという一風変わった、柔らかなタッチのドキュメンタリーを「ネコメンタリー」と名付けた。漱石以来、多くの作家たちが猫に投影させてきたさまざまな心情が、現代の「もの書く人」と愛猫の姿を通して描かれる。
幼さと老成が同居し、あくまでもマイペースでアマノジャクな存在である猫は、ものごとをさまざまな角度から切りとろうと企む作家、表現者たちと、もともと相性がいい。
とはいえ、この何年にもわたる猫ブームの中、その関係性から現代の何が見えてくるのか? 現代人が猫という存在に何を託しているのか? あらためて映像を通して考察しようというわけだ。そこにも、野生への憧憬であり、文明化の中である種の欠落を埋めようとする私たち自身の姿が見え隠れするように思われるのだ。漱石以来の、私たちの猫への想いの投影は続く。
企画のテーマは、いつも時代との対話だと思っている。日々、日常の些末な一場面から大衆的な人気を獲得する社会風俗まで、聖俗、硬軟、すべてつながっている。そうしたあらゆるものを同時代の現象として捉え、みなさんとともに考えるきっかけとすることができるのが、映像という媒体の可能性だといつも思う。
炎を眺め、猫と戯れながら、資本主義の本質へ……。
2021年が始まる。
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