「ヤクザ映画」抜きに東映の成功は語れない理由 「仁義なき戦い」を世に出した岡田茂の慧眼

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大スターをリストラした岡田でしたが、スタッフは1人も解雇しないと宣言します。敵と言えるテレビの勃興が、彼らの職を安定化させたのです。

テレビは多彩な番組を必要とし、時代劇は重要なコンテンツでした。時代劇は映画館からお茶の間で楽しむものとなっていき、時代劇制作なら東映京都撮影所のスタッフは本領を発揮できます。そこで岡田は、テレビ制作会社をつくり、若いスタッフたちを移しました。

苦闘していたのは、ほかの映画会社も同様で、東宝の三船敏郎、日活の石原裕次郎は独立プロを立ち上げていました。東映から身を引いた中村錦之助も独立するなど、日本映画の大きな転換期を迎えたのです。

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任侠路線はヒットを続けましたが、時代劇同様、やがては飽きられます。替わって岡田が路線としたのは実録路線でした。この実録映画の代表作が、広島で起きた実際の抗争事件をモデルとした『仁義なき戦い』です。

スターの交代も同様に行われ、鶴田浩二はテレビに移り、高倉健は東映から独立してフリーとなり『幸福の黄色いハンカチ』『八甲田山』『野性の証明』『南極物語』など、数々の大ヒット作品に主演し、仁侠映画から日本映画の大スターとなりました。彼らに代わって東映を支えたのは菅原文太、梅宮辰夫、千葉真一、松方弘樹です。

実録路線は、リアルなやくざの生態を描いたため、警察は東映と広域暴力団の関係を怪しみます。東映が得る収益の一部が、暴力団に流れているのではないかと疑われたのです。このため、俊藤は兵庫県警に聴取されましたが、俊藤も岡田も暴力団とのつながり、資金源になっていることを強く否定しました。

「警察と暴力団の癒着」さえ映画化

向こう意気の強い岡田は、兵庫県警への怒りを爆発、県警の刑事と暴力団の幹部との癒着関係を描いた映画を制作しました。「題名は『県警対組織暴力』や、いっちゃれ、いっちゃれ」と制作現場を鼻息荒く督励したとか。岡田は広島出身、口調は『仁義なき戦い』シリーズで金子信雄が演じた山守親分を彷彿とさせたそうです。

東映の業績をV字回復させた岡田の逆転人生にあった原動力は、向こう意気の強さと果敢な行動力でしたが、それに加えて反権力を貫く活動屋魂であったのかもしれません。

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