「大口顧客も門前払い」銀行融資のおかしな現場 顧客本位とはとてもいえない理屈で動く
このように審査には多くの障壁がある。狭き門をくぐり抜けて、首尾よく融資が可決されれば、担当者にお礼を言いたくもなるだろう。だが、担当者はすでに次の一手を用意しているかもしれない。
「期末目標があるので定期預金を作ってください」
融資の現場ではよくある光景だ。よく考えると、運転資金を借りに来る客は基本的に足元の資金が足りていない。それを知ったうえでも無利子に近い定期預金を「お付き合い」で作らせるのは、顧客に不利益な取引ではないだろうか。
高い利子を払ってまで借りた虎の子の運転資金を、定期預金として拘束されることに顧客側のメリットはない。金融庁が規制してもいいくらいだ。
こうしたおかしなやりとりは、担当者個人の問題ではないことも多い。担当者自身もおかしいと感じながら推奨してくるサービスもある。
「形だけでいいので遺言書を作ってほしい」「最初だけでいいのでビジネスマッチングサービス(有料)に案件登録してほしい」
融資以外の収益も確保して総合金融機関であろうとする各社の経営方針だろうが、本当に形だけのものが多く、顧客にメリットのある付加サービスに出会うことはまれだ。
筆者も、担当者に言われた通りにマッチングサービスに登録したが、当社案件への応募は1件もなかった。
信用保証協会の債務保証がもたらす歪み
「保証協会付き融資なら、うちはやる気です」
信用金庫の担当者は意気込む。保証協会とは、零細企業向けに数千万円程度の融資枠を提供する日本政策金融公庫の関連組織だ。公庫も保証協会も、中小企業の「最後の砦」といわれる公的金融機関であり、信用力に乏しい企業に小口資金を融資しているという点では同じだ。いずれも、なくてはならないセーフティーネット融資制度だといえる。
しかし筆者は、この保証協会のする債務保証が地域金融機関の活動に歪みを生じさせていると考えている。保証協会は保証だけを提供し、実際の融資は地元の信金などが貸し手となる点がポイントだ。
信金はこの制度を使って、保証協会に保証をさせたうえで貸せば、ほぼ無リスクで利ざやを得られてしまうというカラクリがある。そうなれば、自らのリスクで企業の事業性を評価して融資を出すことを控え、保証協会の「おいしい」保証に依存したくなるのもうなずける。
「埼玉は東京よりも保証協会の審査が厳しいので、信金が保証協会に頼らず、自らプロパー融資を拡大している」
そう証言する信金担当者もいる。保証協会の審査が甘ければ、信金はそこから無リスクで利益を上げることに走り、保証協会が使えなければ、自ら知恵を絞って顧客を開拓しているというわけだ。
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