池袋暴走「上級国民批判」異常なほど沸騰する訳

嘘をつき通し悪びれない者が勝つ社会への鬱屈

それはわかりやすくいえば、正直に生きている者がかえって損をする、貧乏くじを引くような昨今の風潮であり、自らの利益のみを追求するがゆえに「嘘をつき通し、悪びれない」者が真っ先に出世し、経済的な成功を収める――いわば冷血漢のごときサイコパス的な人格で世渡りしたほうが生きやすい世界になっている現状への強烈な違和感である。

任意の事情聴取を終え、警視庁目白署を出る際は、杖をついて歩くのもやっとという状態だった(写真は2019年5月、写真:共同通信)

わたしたちはそのような殺伐とした時代を象徴するモンスターを飯塚被告に見いだしているのだ。もちろん飯塚被告が「本当にそう思い込んでいるのか」「わざと知らないふりをしているのか」は不明であり、ある意味で現代の悪を一身に負わされた虚像といえる。

しかし、わたしたちはマスメディアが流す情報の断片から、「厚顔無恥の勝利」といったモラルハザード(倫理の欠如)の腐臭を嗅ぎとっていることは間違いないだろう。だからこそこの事件が特別なものに思えるのであり、不快感や怒りの感情が沸き起こりやすいのである。

「嘘をついた者が勝ち」という時代精神の申し子

国政に目を転じると、安倍政権の7年8カ月の間に展開された数々の嘘、詭弁、隠蔽、改竄といった出来事がテレビなどで大々的に報道される一方で、それらへの批判を無視して自らの非を認めない態度を貫くことが、政権の存続だけではなく、この過酷な社会をサバイブするために不可欠な作法であるという隠されたメッセージがお茶の間にすっかり浸透していた。しかも、これは今なお進行中だ。上級国民とは、「嘘をついた者が勝ち」という時代精神の申し子であるだけでなく、まさしくこの政局の庶民的かつ悪趣味なパロディでもあったのである。

とはいえ、わたしたちの置かれた立場はもう少し複雑で、若干のアンビバレントを含んでいるかもしれない。特に自分の損得に敏感であればあるほど他人事で済ますことができない要素がある。何としてでも自らのポジションを守り抜きたい、組織内でしかるべき地位を得たい人々にとっては、このようなスルースキルは悪魔の囁きとなりうるからである。企業や官庁など自分が所属する狭義の集団しか見えていない人にとってはなおさらであろう。

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