精神病院40年入院、69歳男が過ごした超常生活 3300万円賠償求め国を提訴、際立つ日本の現実

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ところが日本では同時期、精神科病床数を大幅に増加させる政策を次々と打ち出した。1つは、入院患者数に対する職員配置が、精神科病院は他の診療科と比較し医師は3分の1、看護師は3分の2で足りるとする「精神科特例」(1958年)だ。人件費削減効果は明らかであり、医療の提供よりも長期療養を重視した人員配置といえるだろう。

もう1つが資金面での優遇だ。従来の公立の精神科病院への国庫補助に加え、民間の精神科病院の新設および運営経費についても国庫補助を行うようになった。医療金融公庫が設立され、低利長期の融資によって精神科病院の設置を容易にする政策誘導がなされた。

その結果、精神科病床数は急増し、1970年時点ですでに25万床に達している。

国際機関からの指摘相次ぐ

世界的にみて異例な日本の状況を、国際機関も問題視。WHO(世界保健機関)顧問のデビッド・クラーク博士が1968年に日本政府に行った勧告(クラーク勧告)では、精神科病院には非常に多数の統合失調症の患者が入院患者としてたまっており、長期収容による無欲状態に陥り、国家の経済的負担を増大させているとして、精神医療の転換の必要性を訴えた。

伊藤さんもメンバーである精神医療国家賠償請求訴訟研究会は今後も各地での提訴を予定している(記者撮影)

また1985年には国連調査団による調査がなされ、そこでも入院手続きと在院中の患者に対する法的保護の欠如、長期にわたる院内治療が大部分を占め、地域医療が欠如しているという懸念が示され、日本の精神医療制度の現状は精神障害者の人権および治療という点において、極めて不十分とみなさなければならないと勧告されている。

こうした点から、原告側は国がこうした人権侵害行為を故意または過失によって放置した不作為は、国家賠償法1条1項の違法なものであると主張している。

「私は35年間、精神医療福祉の世界で働きましたが、当事者や家族などあまりにも多くの人が苦しんでいます。日本の精神医療は、人間の顔をしていない。裁判を通じて国民にわが国の精神医療の実態を知ってほしい」

伊藤さんもメンバーである精神医療国家賠償請求訴訟研究会の東谷幸政代表は、今回の提訴の狙いをそう語る。研究会は新たな原告の候補や情報提供を求めている。問い合わせ窓口:03-6260-9827

(第6回に続く)

本連載「精神医療を問う」では、精神医療に関する情報提供をお待ちしております。お心当たりのある方は、こちらのフォームよりご記入をお願いいたします。
風間 直樹 東洋経済コラムニスト

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かざま・なおき / Naoki Kazama

1977年長野県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒、法学研究科修了後、2001年東洋経済新報社に入社。電機、金融担当を経て、雇用労働、社会保障問題等を取材。2014年8月から2017年1月まで朝日新聞記者(特別報道部、経済部)。復帰後は『週刊東洋経済』副編集長を経て、2019年10月から調査報道部長、2022年4月から24年7月まで『週刊東洋経済』編集長。著書に『ルポ・収容所列島 ニッポンの精神医療を問う』(2022年)、『雇用融解』(2007年)、『融解連鎖』(2010年)、電子書籍に『ユニクロ 疲弊する職場』(2013年)など。

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