『ルポ 貧困大国アメリカII』を書いた堤未果氏(ジャーナリスト)に聞く
たとえば、ニューヨーク州で過剰労働で苦しんでいる多くの医者について、ほかの州ではほとんどわからない。ほかの土地のことを相対的に報告するメディアがなく、そこで何が起きているか、一つひとつ訪ねて取材することになる。
--中流からの転落も増えていると。
収入が下がってくる一方で、学費と医療費が上がっているため、貧困層に落ちる中流層が多い。中流を再生させるには、戦争経済をどこかで止めなければいけない。その予算を減らし、教育や社会保障に回すべきなのだが。
--学費はそんなに値上がりしていますか。
大学の学費値上げに規制がかからなかった。学費は自分への投資だから自己責任でという考え方で。逆に大学への補助金をカットしたので、大学は値上げした。ここ10年ぐらいで50%程度上がっている。
大学に行くべしと政府は奨励する。繁盛するのは学資ローン。利子も高い。そして借金漬けになる。大学教育がその後のいい仕事、いい給料を保証してくれていたのは一昔前の話だ。今ではいい仕事を得るために大学に行くというよりも、派遣社員になりたくないから大学に行く。昔は正社員になるために大学に行ったが、今は派遣にならないためという強迫観念で、大学の学位をとる。
オバマ大統領は平等な教育の機会を公約したが、大学の学費を下げるのではなくて、学資ローンのハードルを下げる、だった。それは業界の要請でもあった。金融機関は相当献金している。
アメリカ人は市場主義者というわけでもない。もともと政府に介入されるのが嫌い。「社会主義アレルギー」がある。ただ、教育や医療については社会主義がいやだからといって、コーポラティズム(業界との癒着)がいいというわけではない。