菅義偉は安倍晋三のような悪代官になれるのか 中間層の税負担増やしたアベノミクスの裏の顔

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安倍政権発足前の2012年度には約40%だった日本の法人税率は、2016年度までに大きく引き下げられ、今や30%の大台をも割り込んで現在に至っている。もっとも、これは世界の潮流でもあった。世界がグローバリゼーションの波に押されるようになった2000年代以降、西側主要国の法人税率は足並みをそろえて低下し、法人税率20%台が自由主義経済圏の世界標準になった感すらある。

安倍政権による法人税率引き下げは、このような「底辺への競争」とも言われる世界的な法人税引き下げ競争にわがニッポンを遅ればせながらも参戦させるものだったのだ。

しかし、法人税引き下げ競争に参戦するには代替財源が必要である。安倍にとってのそれが消費税引き上げだった。安倍は、2014年と2019年の2度にわたって消費税を引き上げ、政権発足前に5%だった消費税率を2倍の10%にまで持ってきている。

「労働課税強化」「海外投資家優遇」が本質

安倍政権がそれまでの自民党政権と違うのは、財政再建のためなどという後ろ向きの言い訳に頼らず、「日本を、取り戻す」というスローガンが作り出す高揚感と黒田の異次元緩和が作り出した景気回復感を前面に押し出すことによって、普段なら政権の命取りになりかねない消費税引き上げを、大した抵抗もなく成功させたところにある。

だが、ここで大きな図式から全体を眺めてみよう。法人税とは、要するに売り上げから財サービスの仕入れと人件費を控除した残差である「利益」を対象とする税金である。これに対し、消費税とは、売り上げから財サービスの仕入れだけを控除した残差である「付加価値」を対象とする税金である。

すなわち、消費税を増税し法人税を減税するという安倍の政策は、企業の賃金支払いへの課税を重くする一方で、企業利益の最終的な帰属先である株主への課税を軽減することを意味するわけだ。安倍政権における税制改革の正体は、労働課税強化を財源にした資本課税軽減なのである。

そこに気づけば、アベノミクスが株式市場とりわけ海外投資家に大好評だった理由もわかってくる。安倍政治あるいはアベノミクスの本質は、低所得層や中間層の犠牲において富裕層を優遇する政策であるばかりでなく、日本国民に負担を押し付けて海外投資家に媚を売るという、時代劇に登場する「悪代官」さながらの裏の顔を持つ政策でもあったのだ。

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