菅首相、実はワーカホリックで現実的な「素顔」 縦割り打破や規制改革、掲げる改革は本物か

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体制の変更とともに、一部の側近が恣意的に政策を決める手法ではなく、経済財政諮問会議など公の場を使って議論し、その過程を含めて記録が公表され、責任者も明確な透明性の高い形での政策決定が行われることが必要であろう。もちろん、最初に結論ありきの強権的手法ではなく、官僚組織や民間の知恵を大いに活用すべきであることは言うまでもない。

3つ目は国会との関係だ。安倍内閣の特徴の1つが国会軽視だった。与党が圧倒的多数を占めていることをいいことに、野党の国会召集要求や首相の出席要求を拒否し続けたことは記憶に新しい。答弁に立っても安倍氏はまともに答えず、「ご飯論法」などと揶揄されるような不誠実な対応に終始した。そのことが政府の政策の不透明感を高めた。

消え去った官僚主導の政策

真に改革を進めるのであれば、一部の国民の痛みを伴うことは避けられない。従って国民の理解を得るためにも国会での説明は不可欠であろう。菅氏の国会対応は、本気度を見るうえでの重要な指標になる。

菅首相の記者会見を聞いて、筆者の知人のある事務次官は「行政の縦割りや前例主義を打破というが、安倍政権の官邸主導の下でそんなものはとっくに姿を消してしまった。今や霞が関は官邸から何が降りてくるかを戦々恐々として待っているだけだ」と語った。

この20年間で「政」と「官」の関係は大きく変わり、政策決定過程における官僚主導はほとんど姿を消した。政治が前面に出て主要な政策を左右する仕組みが出来上がってきた。そんな中、政治家への抵抗力を失ってきた官僚組織をことさら敵役に仕立てて成敗する姿を国民に見せることでは、改革は不十分なものに終わるであろう。

麻生内閣時代に自民党の支持率が急落し、民主党の勢いが増していたころ、菅氏は「森内閣のころから自民党は賞味期限が切れている。特定の人や団体の政党になってしまい、国民から離れてしまった。党を変えなければならない」と語ってくれたことがある。この問題意識も実践していただきたいものである。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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