中古車頼りの地方鉄道「新車」導入は難しいのか 低コストで導入できる統一車両開発が必要だ

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A3000形は、総合車両製作所(J-TREC)のステンレス製車両、sustina S13シリーズと呼ばれる車両である。同シリーズは18m・3ドア車両であり、静岡鉄道が導入の第1号となった。

静岡鉄道が導入している新車のA3000形。7色のカラーバリエーションがある(写真:河野信紀/PIXTA)

中古車両の導入は、大手鉄道会社の車両入れ替えと時期が合わなければどうしようもない。一定の量の車両がまとめて運用終了にならないと供給源がない。

また、条件に合う車両がタイミングよく現れるかどうかも問題だ。多くの地方私鉄は、長さ18mの車両が主力となっている。より大型の車両が走れる路線であっても、それほど利用者数が多くなければ小さい車両のほうが運用コストを抑えられるためだ。

これまでは元東急電鉄や京王電鉄の18m車両が数多くの地方私鉄に譲渡されてきたが、現在では京王は20m車に統一され、東急も18m車は池上線や東急多摩川線でしか見られなくなった。今後、地方私鉄にとって扱いやすい18mの中古車は入手が難しくなるだろう。

統一規格の車両開発を

そういう意味では、地方私鉄向けに規格を統一した車両をメーカーなどが開発してもいいのではないだろうか。基本的な設計を統一すれば開発コストは削減でき、部品なども共通化してメンテナンスの負担軽減が図れれば合理的である。

ここまで電化された地方私鉄の例を見てきたが、実は非電化の第三セクター鉄道などは新車を導入する例がほとんどだ。1980年代以降、各地の国鉄・JR線を引き継いだ非電化三セク鉄道には「LE-DC」や「NDC」と呼ばれる標準化された気動車が投入された。車両メーカーの新潟トランシスは標準型のローカル線向け軽快気動車を製造しており、第三セクター各事業者の事情に合わせたカスタマイズを施して、低コストで供給できるようになっている。

中古車両を使用していても、本当は新車を導入してよりよいサービスを提供したい、と考える鉄道事業者は少なくないだろう。地方私鉄の条件に合う中古車両の減少もこれから本格化すると考えられる。今後、地方の電化私鉄が新車を導入できる取り組みを進めることが、車両メーカーや鉄道関連各団体、所轄官庁、自治体などに求められるのではないだろうか。

小林 拓矢 フリーライター

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こばやし たくや / Takuya Kobayashi

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学卒。在学時は鉄道研究会に在籍。鉄道・時事その他について執筆。著書は『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。また ニッポン鉄道旅行研究会『週末鉄道旅行』(宝島社新書)に執筆参加。

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