「今日俺」が興収50億円超え、邦画大健闘の背景 若年層が下支え、今後のカギは秋公開の作品群

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映画ジャーナリストの大高宏雄氏は「コロナ禍で多くの人が何カ月もモヤモヤ感を抱えていたなか、笑いや爽快感を伴うエンターテインメントが求められていたと思う。そこへ理屈抜きに笑わせて楽しませてくれる映画が若い層に魅力的に映り、飛びついたのでは」と指摘する。そもそも行動範囲が広い若者をターゲットにしており、それも追い風になったといえるだろう。

また、テレビ局製作の映画のため、番組の中での告知やPRを頻繁にできる状況があったことも大きいと語る。

「もともとテレビドラマとして知名度はあったが、番組を使った宣伝でかなり大量の情報が世に出た。コロナ禍にもかかわらずこれだけのヒットになったのは、こうした作品を求める若い層の気持ちが平時より大きくなり、テレビメディアがその後押しをしたと見る。だから、製作主体がテレビ局でなければここまでのヒットにはならなかった」(大高氏)

もうひとつの要因は、ディズニー&ピクサーのアニメ映画『2分の1の魔法』がお盆過ぎの公開になるなど、この時期の映画館にライバル作品がまったくなかったことだ。

ハリウッド大作など、夏休み恒例の洋画の大作が1本も公開されなかったことから、シネコンスクリーンは前述の2作による寡占化が進んだ。コロナ対策のため映画館の座席数は半分になっているため、シネコン側はスクリーン数(上映回数)を増やすことで対応したが、ほかの大作がなかったから実現できた。結果的に、平時を上回る観客動員を確保することができたのだ。

また、大高氏は「コロナ禍において、エンターテインメントの重要性が改めて浮き彫りになったのではないか。映画は娯楽性と芸術性の両輪を持つ。両者がうまく噛み合いながら、さらに映画への関心を深めてもらえれば」と、映画界の役割の重要性を指摘する。

夏興行は前年比3〜4割程度の厳しさ

夏前まで重苦しい空気に包まれていた映画界に明るい兆しが見えたことは間違いない。しかし、すべてが好転しているわけではない。7〜8月の夏興行全体の興行収入としては、前年比30〜40%ほどと厳しい数字になっており、やはり洋画大作の新作がなかったことが大きく響いている。

邦画のアニメ作品では10月16日公開の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』に期待が集まる © 吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

8月21日から公開された洋画唯一の夏の新作(単館系は除く)である『2分の1の魔法』は、春から公開延期となり、作品の知名度がいまひとつ上がらなかった。大健闘した『映画ドラえもん のび太の新恐竜』にしても、例年であれば興行収入50億円以上は確実に稼げるコンテンツなだけに、やはりコロナ禍の影響は大きかったといえるだろう。

それでは、秋はどうか。『糸』(8月21日公開)と『事故物件 恐い間取り』(8月28日)がともに最終興行収入20億円が見える出足となっており、若い層をターゲットにした邦画の実写作品が引き続き好調を維持している。

そして10月には、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(10月16日公開)が控えている。夏興行を経て、作品次第で若い世代を中心に映画館に足を運ぶことがわかったが、同作は同層に加えて小学生から大人、ファミリーまで幅広い層を動かすポテンシャルがある。

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