サイトを見てもらう効用はもう一つある。同社は、例えば激戦区の東京駅八重洲口では駅に横付けする停車場を確保することはできていない。駅からほんの2分ほどの場所だが、離れたところに乗り場がある。バスの車体・ロゴなども認知されていない。ましてや、どこから乗ればいいのかもわからない。それを知らしめることができるのである。
また、低反発素材のシートが採用されていたり、隣席とはレースのカーテンで仕切ることが出来るといった、特徴的なサービスも売り込める。
・Attention(認知)=こんなバス会社あるんだ。
・Interest(興味)=おもしろいキャンペーンやってるな。
・Desire(欲求)=500円安い!通常価格も結構安いな。
・Memory(記憶)=とりあえずブックマーク。
・Action(行動)=予約を入れよう!
やがて、「いつも最安値じゃないけど、ここもかなり安いんじゃないか?」と思う。何度も500円席を探してサイトをのぞきに来ているうちに「まぁ、ここでもいいっか!」と思う人も出てくる。利用してみれば、なかなか快適。リピートする。囲い込みである。
実は、関連商品のクロスセリングもやっている。出張手当を割安にしようと利用した顧客に、「プライベートの旅行でもどうですか?」とWebサイトではバス利用の格安旅行などもしっかりと訴求している。
激しい競争の中、どうやって消費者を振り向かせるかはあらゆる企業が腐心しているところだ。しかし、安易に「キャンペーン」という奇策に出ても、それ以降の設計ができていなければ、一過性に終わってしまう。
競合激化で価格低下、サービス向上と各社の様々な試行錯誤が続く高速バス市場。出張費も削られ、プライベートの財布のひもも固くなる一方の今日この頃だ。市場調査のつもりで、高速バスを利用手して出張、旅行をしてみたらどうか。その時各社がいかに顧客をつかもうとしているか、じっくりと肌で感じ、観察してみてほしい。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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