被災鉄路「代わりの交通機関」どう案内するか 非常時こそほかの交通手段との連携が大切だ

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列車代行バスの乗り方以上に現地での情報が不足しているのが、不通の鉄道と並行しており、通常通り運行している路線バスの情報。別運賃が必要だが鉄道に代わりうる、重要な移動手段の情報だ。

けれども、これも輸送力の問題か、「地元住民なら知っているだろう」「他の地方から来る慣れないお客は少ないから、フェース・トゥ・フェースで案内すれば大丈夫」と考えているのか。張り紙1枚でいいのだが、これが駅で提供されていた例は、今回の肥薩おれんじ鉄道の八代駅と、2019年10〜11月に田中―上田間が長期運休したときの、しなの鉄道上田駅でしか見たことがない。

筆者の場合、被災路線の取材のとき、「あの地域だと、バス路線を持っているとすれば、あの会社か?」と利用客側から考えを巡らせ、直接、バス会社のサイトにアクセスして、路線バスの有無からしばしば情報収集を行った。そもそも中小民鉄では、並行する路線バスがない場合も多々あるが、あるかないかの情報すら、鉄道会社側からはアクセスできなかった。

また、これも両駅に共通していたのが、被災した場所の写真や地図などを駅に掲示し状況を説明していたこと。利用客に納得してもらうための取り組みで、両社の情報提供への姿勢が垣間見え、好感を抱いた。

重要なのは情報提供への「姿勢」

公共交通機関同士の連携が不足している例は、残念ながら各地にある。非常時こそ、情報交換を密にして協力し合うべきで、他社の情報はわからないで済ませてはいけないと考える。近年、公共交通機関同士や、交通産業と他の産業とが手を結び、「MaaS」と呼ばれる取り組みが盛んだ。これは「さまざまな形態の輸送サービスを統合し、オンデマンドでアクセス可能な単一のモビリティ(移動)サービス」が定義と言えるだろう。

肥薩おれんじ鉄道が八代駅に掲示した路線バスの時刻表からは気配りが感じられる(筆者撮影)

運行情報(時刻表)の提供などMaaSの基礎中の基礎だ。しかし、スマートフォンアプリを開発するまでもなく、「張り紙1枚で済む話」でもある。いつでもどこからでもアクセス可能とはいかないが、幸い鉄道には、鉄道会社にとっても利用客にとっても情報の集積地となる駅がある。阪神・淡路大震災、東日本大震災ののとき、張り紙が威力を発揮した事例に学ばなければならない。非常時こそ、可能な限り、あらゆる情報を手段を問わず提供する必要があるのだ。

MaaSはアプリ、つまり情報提供の手段ではなく、その根本となる思想、考え方でなければならないという意見もある。筆者もそれに賛同する。

肥薩おれんじ鉄道の取り組みは誰の発案かはわからないが、利用客にとって、それは単なる裏話であり、重要ではない。これは利用客にとって必要な情報だから、紙でも何でもいい、提供しなければならないというところへ、社員の発想が至った点が重要だ。

土屋 武之 鉄道ジャーナリスト

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つちや たけゆき / Takeyuki Tsuchiya

1965年生まれ。『鉄道ジャーナル』のルポを毎号担当。震災被害を受けた鉄道の取材も精力的に行う。著書に『鉄道の未来予想図』『きっぷのルール ハンドブック』など。

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