韓国のFランに通う学生がかえって幸福な理由 世俗的成功より家族の幸せを大事にしている

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ハンギョレ新聞は、若者に対する硬直化したまなざしに一石を投じる企画を行っていた。

同紙が郊外の満19~23歳100人にインタビューした結果、69人が「地域格差や学閥差別などに挫折して傷ついた姿を見せながらも、自分の未来が現在よりよくなるだろうと楽観」していたという。これについて同紙は自らの取材姿勢を「不幸な現実に希望を失った若者という特定の姿ばかりに注目しようとした慣性のせい」と振り返り、「メディアがソウルの主要大学の若者たちを過剰代表する慣性のように、挫折ばかりを展示するのも違う形の一般化である」と書いた。

抑圧的構造は確かに存在する。ただし、その構造をどう御していくかは千差万別であり、その結果として「適当主義に逃げ込む」というのも、まっとうな韓国の若者の生き方だといえるのではないだろうか。

高い「若者の精神疾患罹患率」

一方、抑圧的構造に置かれた韓国の若者の生態をよく知る30代の韓国人男性は「特に地方では、精神疾患への罹患がよくみられる」と話す。

実際、韓国の19~29歳の精神疾患罹患率は、ほかの世代と比べて群を抜いて高い。

韓国健康保険審査評価院が2019年に発表した「直近5年間のパニック障害、不安障害、うつ病、躁うつ病患者の現況」によると、それぞれの疾患の増加率はすべて20代が1位であった。2018年に診療を受けた20代は20万5847人で、2014年の10万7982人に比べて90.6%も増加していることがわかった。しかも、2014年からは年に約25%ずつ増加していることも明らかになった。

読者もおそらく推察されるとおり、この原因について同調査は「若者を取り巻く環境、すなわち就職難と激しい競争、負の二極化とマルチギャップ、過度のストレス、環境など」と分析している。青春のほとんどを勉学と就職活動に費やしたのに、「それなりの就職」ができなければその場で負け、という極端すぎるゲームが精神を蝕むことは想像に難くない。

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加えて根本的な問題として、韓国社会が「他者評価によって成り立っている」点も見逃せない。これも私見ではあるが、取材を通じて、自己決定の選択肢が「社会的承認を得られるかどうか」を前提としているようにたびたび感じられた。

「自分がどうしたいか」よりも「親が認め、他人が羨むこと」を優先させた結果、空洞化する自己。それを埋め合わせる何かを、韓国の若者は強く求めているのかもしれない。

安宿緑 ライター、編集者

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やす やどろく / yasu yadoroku

東京都生まれ。東京・小平市の朝鮮大学校を卒業後、米国系の大学院を修了。朝鮮青年同盟中央委員退任後に日本のメディアで活動を始める。2010年、北朝鮮の携帯電話画面を世界初報道、扶桑社『週刊SPA! 』で担当した特集が金正男氏に読まれ「面白いね」とコメントされる。朝鮮半島と日本間の政治や民族問題に疲れ、その狭間にある人間模様と心の動きに主眼を置く。韓国心理学会正会員、米国心理学修士。著書に『実録・北の三叉路』(双葉社)。

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