小田原の路面電車「64年ぶり里帰り」実現するか 長崎に移籍の車両、クラウドファンディングで
悩んでいた時期に、救いの手を差し伸べてくれたのが、小田原が生誕の地である二宮尊徳(金次郎)をまつる報徳二宮神社の宮司、草山明久氏だった。同神社が運営するまちづくり会社「報徳仕法株式会社」が、昼は観光回遊と消費促進の拠点、夜は地元の3世代が交流する暮らしの拠点とする新施設の準備を、2021年2月のオープンを目指して進めており、その敷地の一角に202号車を設置することを了承してくれたのだ。
同施設は、かつて路面電車が走っていた国道1号に面する「箱根口」交差点付近に位置し、立地としても申し分ない。
草山氏は、この新施設について、「昼は観光客向けに地場産品の販売や、レストラン・カフェを運営し収入を確保する。夜は、共働き世帯がふつうになる中、子どもを中心に地域の人々が自然に集えるような食堂などを開くことで、3世代が交流する地域コミュニティーの場とする」とし、この2つの機能を同じ施設が担うことで、地域経済の循環と地域課題の解決を持続可能(SDGs)な方法で実現させることを目指すという。
この点、202号車の保存事業もSDGsと親和性がある。90年以上の長きにわたり現役で活躍した車両は、日本の物づくり品質の高さと物を大事に扱う伝統を示す好例であり、子どもたちに小田原の歴史を伝える遺産となる。
LRTの布石にも?
さらに、202号車の保存は、単に歴史モニュメントの保存という意味を超え、SDGsを市政運営の方針にかかげる小田原市の将来に向けた布石となる可能性もある。
具体的には、「地元の自然エネルギー事業者と連携したLRT(ライトレール)の敷設など、今後、小田原の二次交通整備に向けた計画が浮上すれば、そのシンボルとして202号車を活用することも考えられる」(保存会関係者)という。
つまり、202号車そのものを再び小田原で走らせることは難しいが、「LRTという省エネ性・環境性に優れた新たな形で路面電車が復活する様子を202号車に見守らせることで、路面電車という同じ軸で、小田原の過去から未来をつないでいく」(保存会関係者)という壮大な思いがプロジェクトに込められており、こうした理念があってこそ、今回のプロジェクトを進める意義が増すというのだ。
「こうした我々の思いをきちんとご説明申し上げたので、草山氏は設置をご了承くださった」と、保存会関係者は話す。
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