東急・JR北海道「豪華列車」出発までの全ドラマ 「ザ・ロイヤルエクスプレス」きょうスタート

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しかし、JR九州の豪華寝台列車「ななつ星 in 九州」が成功を収め、JR東日本やJR西日本も豪華列車戦略に乗り出していた。北海道にも同様の列車が走ってもよいのではないかという観点から、道は2016年ごろからJR北海道に対して、ななつ星のような列車も視野に入れた観光列車の導入運行を働きかけていた。だが、経営危機に陥っているJR北海道には何十億円もの製造コストがかかる列車を造るだけの資金がない。そこで、国は国内外から鉄道事業者を公募して、JR北海道の線路の上に観光列車を運行させるという構想を2018年に打ち出した。

JR貨物がJR旅客各社の線路の上を走っているように、運行会社と線路保有会社が異なる例は珍しくない。国としては、鉄道運行とインフラ管理を分ける「上下分離」の導入が念頭にあった。

このアイデアに前向きな姿勢を見せたのが東急だ。もともと、東急は北海道での事業展開に昔から意欲的に取り組んでおり、1958年には「札幌急行鉄道」という札幌―上江別間を走る鉄道路線の敷設免許の申請を行ったこともある。建設費に見合う採算が得られないことから見送りとなったが、現在も札幌・定山渓エリアの路線バスを運営するじょうてつをグループに抱えるなど、北海道との結びつきは強い。東急の髙橋和夫社長は「当社は北海道に対して熱い思いを持っている」と語る。

JR北海道の観光列車戦略は?

国の上下分離構想に対して、髙橋社長は、「“上”に観光列車を走らせるのは北海道全体の観光事業を創始する大きなファクターになる。当然、興味ある話になってくる」と2018年8月、記者の取材に対して意気込みを語った。

2019年2月12日に開いた共同会見で手を組む鉄道4社トップ。左からJR北海道の島田修社長、JR東日本の深澤祐二社長、東急電鉄の髙橋和夫社長、JR貨物の真貝康一社長(記者撮影)

だが、実際に決まったスキームは、国のもくろみとは異なっていた。東急の車両が走るとはいえ、運行を担うのは東急ではなくJR北海道だった。非電化路線での運行経験がない東急が北海道で自ら運行することはあまりにもリスクが大きすぎた。

安全上の理由だけでなく、収益面での懸念もあった。鉄道事業者として北海道で適切な収益を上げていくためには、観光列車の運行だけでは足りず、定期列車を1日に何本も走らせる必要がある。ただでさえJR北海道は利用者低迷に苦しんでいるのに、そこに東急が割って入っても少ない客の奪い合いになるだけだ。

東急が観光列車戦略で協力を申し出てくれたのはありがたかったが、JR北海道としても、自力で観光列車戦略を進めたいという思いはあった。4社会見の2日後となる2月14日、単独での観光列車投入を発表した。その内容は既存のディーゼル車2両の改造による「山紫水明(さんしすいめい)」という観光列車の投入。そして、観光仕様にあつらえたキハ261系の2編成新造。どちらも観光列車として使わないときは定期列車として走らせるため、ザ・ロイヤルエクスプレスのような華やかさには欠ける。だが、車両が豪華なら乗客の満足度が高いというわけではない。乗務スタッフによるサービス水準の高さは成功の絶対条件である。

JR北海道の島田修社長は、ザ・ロイヤルエクスプレスの出発式で、「東急からおもてなしの心を学ばせて頂き、当社の観光列車に生かしたい」と話した。もともと、JR北海道の観光列車のサービス水準の高さには定評がある。東急とのコラボでさらに磨きをかける。

いつの日か自前の豪華観光列車を持ち、そこでサービスの真価を発揮できる日を夢見て――。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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