今の40歳前後に苦しい生活を送る人が多い因縁 中年格差を生んだ就職氷河期とは何だったのか

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就職氷河期に求職時期を迎え、失業者になったり、非正規労働者になったり、あるいは不本意な仕事をする職に就いている人たちが、中年になっても労働条件なり生活振りがなぜ好転しないのか、その理由を探究しておく必要がある。それはすでに述べた日本の労使関係の特色から説明できる。

どういうことかというと、新卒採用のときにいい職(例えば、正規雇用や大企業で働くということ)に就けなかった人、あるいは失業者や非労働者になった人は、その後に転職してもっと好ましい職に就いたり、あるいは新しい雇用先を見つけたりするのが困難なのが日本の労使関係なのである。

新卒一括採用が主なので、学校卒業後に何年間か経過した人を新しく採用しないのが日本企業だからである。新規学卒と終身雇用(長期雇用)が原則なので、中途採用をなかなかしないのである。たとえ中途採用をすることがあったとしても、企業はそれらの人を基幹労働者とみなして将来の幹部候補としての扱いをしない。これも終身雇用と年功序列のなす処遇なのである。

ここで述べたことを換言すれば、幸いにして新卒のときにいい仕事なりいい企業に就職できた人は、恵まれた企業人生活を送れるが、新卒のときにそれを成し得なかった人は、その後の人生でも復権がならず、半永久的に恵まれない生活を送らざるをえない可能性が高いのである。

1度の大学入試と新卒の求職活動で人生が決まる

1度の大学入試でほぼその後の人生が決まるとされる日本社会の特色と、1度の新卒時の求職活動の成否によってほぼその後の人生が決まるという特色とは同質と考えてよい。日本社会は1度失敗すると、もう復権は困難という特質を有しているが、それが大学入試と新卒時の就職なのである。

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多少景気がよくなれば、これら「中年期の恵まれない労働生活にいる人を新しく正規労働者として雇用すればよいのではないか」という意見はありうる。しかしこの政策はなかなか実行されない。その原因の1つは、「新卒一括採用」と年功序列制によって企業は新卒の人の採用を優先するからである。さらにこういう中年労働者(とくに非正規労働者)は企業で訓練を受けていないので、未熟練労働者のままでいる可能性が高いこともある。

もとよりこのような敗者復活は不可能という日本社会の特色は徐々に消滅の方向にあるが、まだかなり残っている。就職氷河期にいい仕事やいい企業に就けなかった人は、中年になってもその不利さを挽回できないので、苦しい生活を強いられている人が相当数いるのである。

橘木 俊詔 京都女子大学客員教授、京都大学名誉教授

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たちばなき としあき / Toshiaki Tachibanaki

1943年生まれ。小樽商科大学卒業、大阪大学大学院修士課程修了、ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。大阪大学、京都大学教授、同志社大学特別客員教授を経て、現在、京都女子大学客員教授、京都大学名誉教授。その間、仏、米、英、独の大学や研究所で研究と教育に携わり、経済企画庁、日本銀行、財務省、経済産業省などの研究所で客員研究員等を兼務。元・日本経済学会会長。専攻は労働経済学、公共経済学。
編著を含めて著書は日本語・英語で100冊以上。日本語・英語・仏語の論文多数。著書に、『格差社会』(岩波新書)、『女女格差』(東洋経済新報社)、『「幸せ」の経済学』(岩波書店)ほか。

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