続々登場、「電気式気動車」は電車か気動車か 動力エネルギーの多様化で新型車両が百花繚乱

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他社を交えるとさらに混沌とする。JR西日本の「瑞風」は形式記号に「キ」を使い、87系寝台気動車と公称する電気式気動車である。JR北海道のH100形DECMOも電気式気動車、JR九州若松線・香椎線のBEC819系は蓄電池電車、大村線方面に投入され始めた「ディーゼル・エレクトリック車両」と称するYC1系は、エンジンによる発電電力と蓄電池の電力を利用するハイブリッド気動車と言う。それらの中にあって、JR東海は、高山線や紀勢線の次期特急車に充てるHC85系の試験走行車を世に出した。やはりエンジン発電機と蓄電池を利用する方式で、「ハイブリッド車」と称するが、各車の形式記号がクモロ・モハ・クモハと、全く電車のそれである。

いよいよもって線引きし難く、だからHybrid(混合・合成・掛け合せ)なのだ。

そこで、もと国土交通省鉄道局の技術官僚の方に助けを求めると、例えば電気式気動車は、「歴史的には気動車」だが、現在の最新車両の実態、システムは「エンジン発電機を構成部品の一部とする電車」と認識すべきという。車両の形式については、事業者が業務上で1両1両を識別できるように付けることが定められているものの、記号や数字についての定めはない。だから仮に、ある事業者が新形式の電車にD51やC62と命名してもルール上は差し支えないのである。

運転士の免許はどうなっている?

とはいえ、動力車の操縦には国の免許が必要であり、それは電車と気動車で分かれているはず。そこで制度上、運転士の免許はどうであるかを所管の国土交通省鉄道局に聞いた。結論は、やはり分けられなかった。現状、電車、気動車のどちらの免許でも運転できるとの答えなのである。

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制度のそもそもを考えると、運転操縦のほか故障等に専門的知識を以て対処できる者に与えられる免許であり、当該の車両は電気と内燃機関の知識が必要なため、杓子定規には両方の免許が必要になる。しかし、一方の免許しか取得していない者をその乗務から外すと、乗務員運用が困難になる。担当区所の全員に新たに気動車(または電車)の全知識を習得させて免許を取らせるのも、それも過大な負担を強いることになる。

一方、現在の機器は格段に信頼性が高くなり、モニターが故障個所を発見し、その対処法も示してくれるようになった。指令と通信することで地上の技術者の指示を仰ぐことも容易になり、それが対応の手順になっている。

そこで、通達として事業者の中で必要な知識を十分に教育することを条件に付し、気動車免許でもモーターを備える車両の運転を可とし、電車免許でもエンジンを備えた車両の運転を可としたのである。実は、キハE200形が導入される段階で議論されて、そのような整理になった。

現状、電気式気動車の運転に気動車免許の保持者のみを充てている事業者も、教育が終われば電車の免許で運転できるようにするようだ。すると今後、保存SLの運転を担当するような特殊技術は別にして、電車と気動車で免許を分ける必要性自体、検討対象になってくると予測される。

新しい車両は、車両のシステムだけでなく、さまざまな既成概念や制度までも変えてゆくようである。

鉄道ジャーナル編集部

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車両を中心とする伝統的な鉄道趣味の分野を基本にしながら、鉄道のシステム、輸送の実態、その将来像まで、幅広く目を向ける総合的な鉄道情報誌。創刊は1967年。

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