アップルの低迷→復活の歴史に見えてくる本質 ビジネスパーソンの評価は短期間で定まらない
この大がかりな製品ラインナップの削減の中でも、ジョブズ氏がアップルの社内に残したのが、コンピューターの基幹部分であるOS分野でした。アップルはMacintosh向けのOSについて、互換機を扱う他社への技術供与を中止し、自前で開発する方針を打ち出しました。その後、アップルは「Mac OS X」の自社内での開発に邁進します。
1998年には初代iMacを市場に投入し、そのカラフルな筐体が顧客の支持を獲得。復活を遂げたかに思われましたが、そのブームもまた一時的なものにすぎませんでした。ジョブズ氏の復帰以降も、アップルは鳴かず飛ばずの数年間を過ごさなければならなかったのです。
アップルが真の意味で復活を遂げるきっかけとなったのが、2001年に発表した音楽管理ソフトiTunesと、同じく2001年に発売された音楽再生のハードウェアiPodです。CDやMDを使わずにソフトウェア上で好きな音楽を大量に管理・再生できるiPodとiTunesは、徐々に世の中に受け入れられていくこととなりました。
ジョブズの評価も大きく塗り変わっていく
2005年にアップルは、売上139億ドル、純利益13億ドルを計上し、この頃にはアップルの復活は本物だという認識が定着していきました。また、ジョブズ氏への評価も大きく塗り替わっていくこととなります。ジョブズ氏がスタンフォード大学の卒業生に向けて、
「Stay Hungry, Stay Foolish」
とスピーチをしたのも2005年です。アップルの業績が好調になったことで、ジョブズ氏は経営者として再評価されたほか、ある種の神格化のような動きも見え始めるようになったのです。
こうして、iPodによってアップルの経営を軌道に乗せたジョブズ氏は、コンピューターのポテンシャルを駆使した製品として、2007年にiPhoneを発表しました。
このように、アップルは財務危機を競合であるマイクロソフトからの支援によって乗り切り、iPodのヒットによって復活の道筋をつけ、iPhoneによって世界的な企業として返り咲いたのです。
ジョブズ氏は前述のように、2005年以降、ある種の神格化された扱いをされています。しかしそれ以前は、名経営者には程遠い、評価の低い起業家でした。1996年のアップル復帰の際も、多くの人はジョブズ氏がアップルを復活に導くとは考えていなかったのです。
ある一時点において、周囲から「名経営者」と評価されていたとしても、これは、あらゆる方面の経営能力が優れていることを意味するものではありません。あるいは、長期的に優れた経営をしてきたことを示すものでもありません。
ビジネスパーソンの評価はこのように、短期間で定まるものではなく、また一時的な評価が恒久的に続くものでもありません。ですから仕事においては、「高い評価を得よう」という焦りは禁物です。それよりもむしろ、目の前の高評価を諦めてでも、将来の種をきちんとまき続けられるかどうかが、真の意味で「優れた仕事」をするカギなのです。
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