ウイルスをわかってない人に知ってほしい基本 生物か非生物か、どうやって感染し増えるのか

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例えば、エイズを引き起こす「HIV(ヒト免疫不全ウイルス)」というウイルスは、免疫系の細胞に感染します。

最初はランゲルハンス細胞に感染して全身に広がり、免疫系の中心であるヘルパーT細胞に感染して一気に増殖します。一時的にウイルスの数がピークを迎え不調を招きますが、このときは免疫の活躍によってどんどんウイルスがやっつけられて症状が回復します。しかし、体内からウイルスが完全になくなったわけではないので、自覚症状のないままHIVと免疫のバトルが継続することになります。

何年もの間、不眠不休で闘うことによって少しずつ免疫系は疲弊し、新たなヘルパーT細胞を生む力よりHIVが増殖する力が勝った段階で形勢逆転となり、やがてエイズが発症することになるのです。

ウイルスがヒトを進化させた?

ウイルス研究の歴史は浅く、ほんの100年程度です。行きがかり上、病原性のあるウイルスに関する研究が主流だったことから、ウイルスと言えばつねに有害なイメージがつきまといます。

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ところが最近になって、ウイルスの多くは病原性をもたないどころか、生物の進化に大きく貢献してきたことが少しずつわかってきました。

HIVがヘルパーT細胞に感染した後、そこに自分の遺伝子を組み込んで弱体化させるように、ウイルスには自分の遺伝子を宿主細胞の遺伝子に組み込む性質を持つものがいます。人の遺伝情報を解析した結果、実にその半分以上が、ウイルスに由来する可能性があるということが明らかになったのです。

さらに研究が進んだ現在では、このような現象は意外にも普遍的に見られるということがわかり始めています。通常、遺伝子は親から子へと受け継がれますが、まれに無関係の生物種間でも遺伝子が移動することがあります。どうやら、ここに「運び屋」としてウイルスが関与しているようなのです。

もし、今後この働きの全体像が明らかになれば、ウイルスに対するイメージはガラッと変わり、「生物の進化」に関する考え方も大きく転換することになるでしょう。

左巻 健男 東京大学非常勤講師。元法政大学教授、『RikaTan(理科の探検)』誌編集長

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さまき たけお / Takeo Samaki

東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学教職課程センター教授などを経て現職。共著書に『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、
著書に『暮らしのなかのニセ科学』『学校に入り込むニセ科学』(平凡社新書)、『面白くて眠れなくなる人類進化』(PHP研究所)など。

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