リアリティ番組原因で自殺未遂した歌手の告発 木村花さんの悲劇繰り返すアメリカの異常事態
傷つけられるのは心だけにかぎらない。たとえば、ナイトクラブのコンサルタントであるジョン・タファーがホストを務め、経営の傾いたバーを立て直すリアリティ番組『Bar Rescue』では、出演したラスベガスの医師がケガをした。
医師は制作側に指示され、カメラの回る中でタファーの妻を引っ掛けるような行動を取ったのだが、そのせいでタファーに殴られたのである。
その回のタイトルが「Don’t Mess With Taffer’s Wife(タファーの妻に手を出すな)」となったことからも、医師が知らなかっただけで事前に筋書きが作られていたか、そうでなかったとしても作り手の間でその屈辱的なシーンが“視聴者ウケする”と捉えられていたことがわかる。
また、貸し倉庫に残された品々をオークションにかけるリアリティ番組『Storage Wars』をめぐる訴訟では、女性の出演者が制作側に要求されて「もっとセクシーに見えるよう」整形手術を受けたことが明らかになっている。
トラブルが頻出するのに、何も改善されないまま新しいリアリティ番組が次々と作られ続けてきたのは、番組を観たい人も出たい人も多くいるからだ。
そして、出たい人が絶たないのは、ブラクストンが言うように「制作側が、この番組はその人にとってチャンスであるかのように見せかける」からである。
実際、リアリティ番組をきっかけにトランプは大統領にまで上り詰めたし、キム・カーダシアンはそこらの才能ある女優よりも稼ぐようになったのだから、うまくいった例もないわけではない。
出演者のほとんどは「使い捨て」
だが、現実には、ほとんどの出演者は使い捨てにされる。そして、ブラクストンが指摘するとおり、そうなった時に守ってくれる組合や組織はない。
実は、今も筆者はひとつ懸念をもっている。老舗リアリティ番組のひとつで、見知らぬ男女十数人を大きな家に同居させる『Big Brother』が、もはや新シーズンを放映開始したことだ。
コロナパニックで一斉に中止になった映画やテレビの撮影は、6月に一応、再開していいことになったのだが、キャストやスタッフの安全を守るプロトコル作成や組合の承認が厳しく、実際にはまだほぼ停止状態にある。
にもかかわらず、『Big Brother』は、8月5日に新シーズンを始めるべく、すぐに撮影再開。別のリアリティ番組『The Bachelorette』も、秋の放映開始を目指して動いているという。
『Big Brother』を放映するCBSは、コロナ対策をきちんと行っているし、スタッフはリモートで作業だと主張している。しかし今、感染者がこれまでにないほど増えているロサンゼルスで、ほかに先立って撮影開始を強行するというのは、やはりリアリティ番組だからではないだろうか。
ブラクストンは、リアリティ番組は「少しずつ心が殺されていく」と述べた。コロナ禍の中、今度は心だけでなく文字通りの殺され方をする人が出てこないよう願うばかりである。
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