農業よ農民よ!経営者たれ 直売所革命vs「6次産業」化--木内博一・農事組合法人和郷園代表理事/長谷川久夫・農業法人みずほ代表取締役社長

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価格はどうやって決まるのか。木内は「追っかけ」をやってみた。すると、農作物の価格を決めているのは需給関係でさえない。たとえば、出荷価格が1束20円のホウレンソウをスーパーは100円で売る。出荷価格が50円でも100円で売る。客の値頃感に合わせて価格を決めているのだ。“尻”が決まっているから、スーパーは安く仕入れられるときは、ここぞとガンガン買いたたく。生産原価はいっさい関係なし。

それでも、スーパーの考える値頃感が一定なら、まだ救われる。が、流通業界は異常なまでのオーバーストア状況。値頃感には長期下方圧力がかかっている。「ツケはまとめて農家に回ってくるに決まってるじゃないですか」。そんなバカな話には、付き合っていられない。

木内は市場流通を見切り、「売ってから作る」=注文生産に転換した。6次産業化への第一歩である。

長谷川は「農家が自ら価格を決定できるステージ」としてみずほの村を設立した。「流通機構は60年、70年のしがらみがある。それじゃ、変わらないでしょうっていうの」。

価格決定権を獲得することは、農家に原価意識を植え付け、農家を経営者に変えることだ。生産者から経営者へ。長谷川によれば、日本農業の再生の道は、そこにしかない。

「規模の経済」は働かない 地に足着けたリアリズム

みずほの村では、売れ残った農作物はもちろん、出品した農家が引き取る。それ以前に、みずほの水準に達していないと判断された農作物は、農家が自ら付けた価格でレジを通して買い戻さなければならない。

「売れないモノを売るのがどういうことか、自分で買ってみればいちばんわかるでしょう。厳しい? おカネをいただくんだから、当たり前じゃないの」。経営者としての自覚を育て上げるイロハのイである。

ところが、国の農業政策も農協も、正反対のことをやってきた。「農家を経営者ではなく、生産者としてしかとらえていない。生産者なら生産すればいい。1ヘクタールより2ヘクタール、2ヘクタールより5ヘクタール。足し算だけ。だけど、経営なら、引き算もあるわけだよ」。

国の農業政策は一貫して、農地の集約化=規模の拡大だ。だが、農業では「規模の経済」は働かない。

長谷川はつくば市でいち早くコンバイン、トラクターを導入し、小麦の大規模生産に乗り出した。作付面積30ヘクタール。「麦は刈り入れ時に雨に降られると、品質が落ちる。台風が来たら全滅だよ。1ヘクタールの作付けなら、被害は20万円で済むが……」。規模の拡大はリスクの拡大だった。

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