アスクルの試行に見た「物流のEV化」に待つ難題 10年後にCO2排出量ゼロを掲げるが課題は多い

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ただ、EV導入は期待ほど進んでいない。東部長も「2030年までに配送車両を100%EV化するのはやや厳しいのが現状だ」とこぼす。アスクルロジストの保有する配送車両は約300台。それに対して稼働しているのは、顧客への配送業務に用いられている日産自動車の商用EV「e-NV200」12台。2020年1月には三菱ふそうトラック・バスの電気トラック「eCanter」を導入したが、それも2台にとどまる。

アスクルの例でもわかるようにEVを本格導入するには課題が山積している。まず大きなハードルとして指摘できるのがコストの問題だ。

日本郵便やヤマト運輸も課題に直面

物流業界においてEV導入が進んでいる日本郵便では、2020年度末までに三菱自動車の商用EV「ミニキャブ・ミーブ バン」を1200台配備する計画だ。ただ日本郵便で車両の調達・管理を担当する津田紀彦氏によれば、「1台当たりでガソリン車の2倍以上の車両代がかかっている」という。

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ある物流関係者は、「顧客が必要性を理解してくれて、かつ物流費への転嫁などを認めてくれない限り導入は難しい」と、実情を打ち明ける。

もちろん、エンジンオイルの交換が必要ないなど、ガソリン車に比べてEVはメンテナンス費を抑えられるので、中長期的に見ればコストメリットを出せる。とはいえ、「10年使って数万円程度の差」(日本郵便の津田氏)でしかない。

またEVは大型のバッテリーを搭載する仕様上、エンジン車に比べて積載量が少なくなってしまう。アスクルが導入しているe-NV200は、従来稼働していた1トン車と比べると積載量はおよそ3分の2程度だ。事業所と配送先を往復する回数が増えるため、配送効率も悪くなってしまう。

多数のEVを稼働させるには、配送拠点において充電設備を拡充しなければならない。しかし、「1つの拠点の充電インフラを整備するには、およそ数カ月から半年かかる」と、ヤマト運輸の福田靖執行役員はこぼす。

ヤマト運輸は2011年からミニキャブを100台ほど導入、2019年には国際物流大手・ドイツポストDHLグループの傘下企業と共同開発した宅配用EVを500台ほど調達するなど、日本郵便と並んで積極的にEV化に取り組んでいる。

さらに商用EVの車種が限られる点も課題だ。日本郵便の津田氏は「ミニキャブ・ミーブは2011年頃の車種で、フルモデルチェンジもされていない。自動車メーカーは商用EVの新機種を投入してほしい」と語る。

アスクルの東部長も「メーカーの協力は不可欠。新たなEV導入に向けて各社とは協議を重ねている。ただ導入する車両の台数が限られる分、カスタマイズなどが難しいのも事実だ」と話す。

気候変動問題が顕在化していくなか、アスクルのように企業として果たすべき責任を明確にすることは重要だ。だが、かけ声倒れに終わらないためには、具体策を打ち出しつつも、その限界を知り社会に共有する必要がある。EV導入によるCO2削減を物流領域で実現するためには、越えなければならないハードルがまだ多い。

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佃 陸生 東洋経済 記者

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つくだ りくお / Rikuo Tsukuda

不動産業界担当。オフィスビル、マンションなどの住宅、商業施設、物流施設などを取材。REIT、再開発、CRE、データセンターにも関心。慶応義塾大学大学院法学研究科(政治学専攻)修了。2019年東洋経済新報社入社。過去に物流業界などを担当。

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