以下の「アニメーション制作者実態調査 報告書2019」にある「アニメーション制作としての仕事経験年数」別の人数割合を参照して欲しい。
(外部配信先では図やグラフを全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)
アニメの世界も制作者の平均年齢は高くなっている。アニメーターには高度な技能が求められる。高技能者なら1時間の作業が、低技能者は100時間でも達成できないことがありうる。このため多くの原画をこなせるベテランの原画マンに仕事が集中し、若く未熟な人の収入は少なくなり離職率も高くなる。さらに低賃金・過重労働といった報道もアニメーター志望者の減少に拍車をかけている。
制作工程の中のレイアウトを描ける人材がだんだんと少なくなっているのも心配だ。レイアウトとは監督や演出が描いた絵コンテを元に、背景の構図とキャラクターの動きや配置を緻密に描いた完成カットの設計図ともいえるもの。近年、よく使われるようになっている3Dレイアウトは、それを補完するものでもあり、一度作れば誰でもどの視点からでもレイアウトをとれるので効率はよい。
しかし作品を見て圧倒されるような“すごい”レイアウトは、3Dでは表現できない「誇張」がほどこされている。 例えばレイアウトや原画の手本とされている1995年公開の『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』や1989年公開の『機動警察パトレイバー』は、3DCGが導入される前の作品であり、日本のお家芸である鉛筆描きだった。
しかし今は、作業もデジタル化、細分化されていて、そうした芸術といえるほどのものを描ける人材を育てる環境がなくなりつつある。
ヒット作は実績データではなく、非言語の力が生み出す
アニメ作品への投資は巨額だが何に「懸けて」いるかというと、クリエイティブとそこにかける情熱であり、それは過去の収益実績や運用実績などのトラックレコードでは測れないものだ。例えば『君の名は。』は興行収入250億円と大ヒットしたが、新海誠監督の前作『言の葉の庭』は興収1億5000万円しかない。
過去の実績ではなく、あのセンス、才能を信じたことが、新海誠監督を劇場アニメ第1作の『ほしのこえ』以来支援していたプロデューサー、川口典孝さんのすごいところだ。トラックレコードでアニメへの投資を判断すると失敗することが往々にしてある。
加えて、ヒットアニメを生み出すのにどうしても必要なのがチームビルディング。どんなクリエイターを集め、どうやってチームの雰囲気を作っていくか。そこでできたカルチャーが何かを生み出すパワーとなり、ヒットにつながる。それはトラックレコードをきれいにパワーポイントにまとめただけでは表せない。
数字に出てこない、言葉に落とせない何かが画面に伝わり、客はそれを見抜く。他業界からアニメ業界に転職したとある人の言葉が、コロナ禍でも変わらない制作現場を浮かび上がらせる。
「過重労働など、現場の状況を一方的に切り取られることが多いけれど、アニメ業界はいい業界だと思う。みんなが1つの方向に向かって進んでいく感がすごくある。これは、ベクトルが個々に違う一般企業との大きな差だろう。アニメ業界は忙しく給料も安い。ただ、どういう人たちと一緒に働いているか、どのような満足があるかということは、人間としてものすごく大事なはず。コロナ禍であらためて気づいた」
良質な作品を作り続けられる環境を守るために、今こそアニメ制作会社は経営能力を身に付ける必要がある。
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