1990年代、エジプトで開かれた試乗会の思い出 権力の地・カイロの走破体験は壮大だった
カイロ・ヒルトンは、ナイル川沿いに建つ超高層の高級ホテル。最近高層ビルは増えているようだが、当時のカイロではひときわ目立つ存在だった。写真で見ると、今でも目立っているようだが……。
予約されていた部屋は高層階のスウィート。やたらに広い角部屋で、いくつもある部屋の電気を点けるだけでも一手間。それほど広かった。「超」の付くスウィートだった。
テラスに出ると、眼前に、カイロの街が、ナイル川が超ワイドに広がっている。加えて、視線を遮る高層ビルもない。「カイロの半分が見えている」……マジにそう思えるくらい壮大な夜景だった。
部屋に入った時点で、ホテルを出るまでの時間は4時間くらいしかなかった。寝るに寝られない時間だし、神経も昂ぶっている。
なので、Tさんに「このまま起きていましょうか……」といったら、「なんでも岡ちゃんの言うとおりにするから」と、神妙な答え。
で、寝るのはやめて、冷蔵庫から飲み物やチョコレートを出して一休み……と、ソファーで身体を伸ばした。
自失状態から一転、迎えた心地よい朝
そのとき電話が鳴った。フロントマンからで「チケット見つけられそうです。いろいろ当たったら運び手がわかって、居所もわかりそうです。もう少しでチケットをお部屋に届けられると思います」とのこと。
もちろん、チケットが届くことがいちばん嬉しかった。でも、フロントマンが頑張ってくれたことが同じくらい嬉しかった。旅先でなにかが起こったとき、しっかり手を貸してくれる人に出会うのはなにより嬉しい。
この朗報で、Tさんも俄然元気が出た。ほとんど口をつぐんでいたのに、冗談も出るようになった。僕も冗談で返した。
それから30分くらいして、ドアをノックする音が。チケットが入っているであろう封筒を持って、笑顔のフロントマンが立っていた。
若い運び手が「ついうっかりして、チケットをもったままクラブに遊びに行ってしまった」とのことだった。
「フロントで待っていて、直接謝りたいといっておりますので、謝らせに来させます」ということだったが、丁重に断った。
一刻も早く「事件」から解放されて、コークを、チョコレートを楽しみたかったし、2度とないかもしれない「超スウィートルーム」の贅沢を味わいたかったからだ。
早朝、フロントマンの笑顔に送られてホテルを出た。少し眠かったし、疲れてもいたが、とても心地よい朝だった。
(文:岡崎宏司/自動車ジャーナリスト)
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