個室寝台列車は「密」を防げる最強の交通手段だ コロナ禍を機に長距離移動手段として復活を

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その次としては、以前寝台特急「北斗星」「カシオペア」が運行されていた上野―札幌間や、寝台特急「トワイライトエクスプレス」が走っていた大阪―札幌間であろう。上野―札幌間などに寝台夜行列車が復活すれば、東京―博多・長崎・宮崎・鹿児島中央への復活も視野に入る。それ以外として、東京―松山間の新設や東京―下関間、東京都内から上越線経由で青森方面へ、かつての「あけぼの」のルート復活なども考えられる。

潜在的な夜行旅客需要は見込めることから、個室寝台車を前提に、長距離に関しては“スイート”“ロイヤル”など高級なA寝台個室の組み込みを増やし、食堂車・ロビーカーなども組み込んで列車の魅力を高めれば、1990年ごろの状態にまで寝台夜行列車を復活させることは可能であると、筆者は考える。

復活には大きな課題も

ただし、寝台夜行列車を復活させるうえで、大きな課題となる事柄として、以下の3点がある。

(1)JR各社間の調整
(2)並行在来線を通る際の調整
(3)JR以外の運行会社の参入

(1)に関しては、寝台列車をはじめ、JR各社間をまたがって走行する列車はダイヤの調整などが大変であるため、「車両の老朽化」を理由に廃止されてしまった経緯がある。

JRが発足した当初は、商法で持ち株会社が認められていなかったため、各社を束ねる持ち株会社は設立されなかった。だが、現在は持ち株会社の創設が可能となったことから、一つの案としては後述のJRの制度設計見直しも含めた方策として各社を束ねる「JRホールディングス」を創設し、JR各社間のダイヤの調整を実施することも考えられる。

(2)に関しては、現時点でJRの列車が並行在来線を走行する際は、車両を並行在来線を運行する第3セクター鉄道に貸し、車両のリース料と運行委託費を得るという形になっている。JRが寝台夜行列車を運行する場合、第3セクター鉄道との調整が必要となる。

だが、国鉄分割民営化から30年以上が経過し、JR北海道やJR四国が経営困難な状況に追い込まれるなど、JR自体が制度設計を再度やり直すべき段階に来ているといえる。その際、並行在来線の経営も検討課題となるであろう。そこで、並行在来線は既存の路線も含め、各県がインフラを保有し、運営は元のJR旅客会社が担うようにするべきだと考える。この形であれば運行の調整は容易になる。

(3)は、「利益率が低い」ことを理由にJRが参入する意欲が低ければ、寝台夜行列車を安全かつ安定して運行できる事業者の新規参入を模索する必要がある。他社が運行を担い、JRが線路使用料を得る形が考えられる。

また、この夏、東急電鉄のクルーズ列車「ロイヤルエクスプレス」が北海道で運行される予定となっている。この列車は東急が企画・販売やサービスを担い、JR北海道が列車を運行する。このような形態で運行することも考えられる。

寝台夜行列車は潜在的な需要が見込めることに加え、今回のコロナウイルスの蔓延により、個室寝台車は「3密」にならないことから、安全でかつ安定した輸送手段であることが証明された。政府も「Go Toキャンペーン」を実施するのであれば、それと並行する形で、寝台夜行列車を復活させるための施策を打ち出す必要があると言える。1日も早い、個室の寝台夜行列車の復活が望まれる。

堀内 重人 運輸評論家

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ほりうち しげと / Shigeto Horiuchi

1967年生まれ。立命館大学経営学研究科博士前期課程修了。運輸評論家として執筆や講演活動、ラジオ出演などを行う傍ら、NPOなどで交通問題を中心とした活動を行う。著書に『ビジネスのヒントは駅弁に詰まっている』(双葉新書)、『観光列車が旅を変えた: 地域を拓く鉄道チャレンジの軌跡』(交通新聞社新書)、『地域の足を支える コミュニティーバス・デマンド交通』(鹿島出版会)ほか。

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