「低水準の恐怖指数」は、何を意味するのか 米経済への安心感が、強気を下支え
[東京 21日 ロイター] -米経済への安心感が市場センチメントを支えている。ウクライナ情勢や中国経済など懸念要因は依然消えていないものの、金融市場の不安感を示す「恐怖指数」は昨年末の水準よりも低い。
米国の経済指標や企業業績はまちまちだが、寒波の影響から順調に回復しているとの見方が強まっている。強気ムードが継続すれば、中期的な円安・株高トレンドは崩れないとの見方も多い。
プロの信頼度高い米失業保険データが改善
米国の新規失業保険申請件数はプロの市場参加者の信頼度が高いことで知られる。前週のデータが手に入るという速報性に加え、毎週発表されることで時間的なギャップも短いためだ。サンプル調査ではなく全数調査であるため、サンプルの入れ替えといった影響もない。景気や雇用統計との連動性も高い。
申請のレギュレーションがたまに変わるほか、州ごとに受給条件や受給額が違うという欠点もある。祭日やストの影響で振れも大きいので、4週移動平均などを使わないとトレンドが読みにくいというプロ向けの指標ではあるのだが、信頼度は抜群だ。
その新規失業保険申請件数が改善を続けている。米労働省が17日発表した12日終了週の新規失業保険週間申請件数は、前週比で2000件増の30万4000件となった。前週につけた6年半ぶりの低水準付近で、米経済の底堅さをさらに裏付ける内容となったと評価されている。4週間移動平均は4750件減の31万2000件と、2007年10月以来の低水準だった。
16日に公表したエコノミスト対象のロイター調査によると、米国の国内総生産(GDP)成長率の予想中央値は今年が2.7%、2015年と16年がいずれも3.0%。07─09年の景気後退終了から0.5%ポイント程度の加速となる。米経済は年初の寒波で予想外に押し下げられたが、歳出の自動削減など財政面からの悪影響が薄れる今年は、年後半にかけて成長率が加速するとの見方が再浮上してきている。
米国発の円安・株高に期待
ウクライナ情勢は依然として緊張感が高く、中国経済も先行き不透明感を強めているが、市場心理は堅調な米経済を背景に意外と強気だ。昨年末のような「バラ色」シナリオが復活するのは難しいとしても、地政学的にリスクオフの動きが出た場合でも、大崩れには至らないのは、米経済への安心感が市場センチメントを下支えていることが大きい。
シカゴ・オプション取引所がS&P500指数のオプション価格の情報を用いて算出・公表するVIX(別名:恐怖指数)<.VIX>は前週末18日の海外市場で13.36と終値としては2週間半ぶりの低水準となった。年初来の最低水準ではないが、強気ムードが世界中に広がっていた昨年末12月31日の13.72を下回るレベルだ。
バイオ株やネット株などバリュエーションが異常に高かった、いわゆるモメンタム株の再度の調整には警戒感も残っているが、「米経済が順調に回復していけば、バリュエーションは徐々に正当化されていくことになる」(三菱東京UFJ銀行・金融市場部戦略トレーディンググループ次長の今井健一氏)とみられている。
堅調な景気を背景にグローバル投資家のリスク選好度が維持されれば、年初からの調整で勢いを失っていたドル高・円安トレンドの再開も期待できる。1ドル110円を超えるような円安には副作用も大きくなるが、緩やかな円安であれば、輸出企業の収益改善を通じて消費増税によるダメージを軽減、日本株にもポジティブだ。
足元は伸び悩み気味である輸出の増加も期待できる。日本の2013年度の国別輸出先でトップは13兆2064億円の米国だ。中国向けも13兆0052億円と大きいが、加工用の部材品などが多い。「巨大需要市場」の米国経済が拡大すれば、中国経済が多少減速しても、中間部材の需要増を通じて中国向け輸出もそれほど落ちないとみられている。
今朝に発表された日本の2013年度貿易赤字は過去最大の13兆7488億円と過去最大となったが、SMBC日興証券シニアマーケットエコノミストの嶋津洋樹氏は「米国を中心に先進国の景気が回復していくという前提に立てば、今後、日本の貿易赤字がどんどん膨らむということにはならない」とみる。ただ、貿易赤字が縮小したとしても、米国経済が回復すれば、ドル高/円安になると予想している。
アベノミクスの進展という日本発の材料ではないところが、昨年と異なるが、米国発の材料で円安・株高が進めば、遡及的にアベノミクスへの評価が高まる可能性もある。物価上昇と消費増税の影響が決して小さくはないと警戒されているだけに、米経済の順調な回復は日本にとっても追い風となりそうだ。
(伊賀大記 編集:北松克朗)
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