「がんが治る」保証ないニセ情報が危険すぎる訳 間違った治療を選択しても責任は患者にある

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がん患者が「フコイダン」に多額のお金を使うのは、効果を信用しているからだ。大きな影響を与えているのが、ある国立大学研究室の存在である。所属する研究員によるウェブサイトは、効果を次のようにうたう。

「低分子化フコイダンは、がん細胞に直接作用し、がん細胞を自然死(アポトーシス)に導きます。また、がん細胞に栄養を運ぼうとする血管が新たにできることを抑制し、患者さん自身の免疫力を高めます」

この国立大学研究室は実験によって、「フコイダン」の抗がん剤作用を確認したと公表している。ただし、同研究室が行った実験は、「in vitoro(イン・ビトロ)」=「試験管の実験」の段階だった。試験管の中で確認されたことが、患者の体内で同じく作用するとは限らない。だから、多数の患者を対象にした臨床試験によって、有効性を確認することが必須になっている。

「間接的に聞いているし、自分も確信している」

ちなみに同研究室は、医学系ではなく、農学系に属している。担当の研究者は、電話インタビューに対して次のように答えた。

『やってはいけないがん治療 医者は絶対書けないがん医療の真実』(世界文化社)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

「自分は医者ではないので、臨床研究論文は書いていない。フコイダンの効果については間接的に聞いているし、自分も確信している。フコイダンの研究は食品の範囲内であり、医薬品にする計画はない」 

新型コロナウイルスの感染がピークアウトした現在、国内の死亡者数は1000人に満たない。これに対して、がんで命を落とす人は、年間約37万人。中には、根拠のない医学情報や高額なサプリメントを信じた結果、適切な治療を受けられずに亡くなった患者も存在しているはずだ。

たとえ、間違った治療を選択しても、大半の医師は強く引き留めない。患者の自己選択権を尊重するのが、現代医療の基本だからだ。

ニセ情報を見抜き、正しい治療を選択する責任は患者側にあることを、ぜひ自覚してほしい。

岩澤 倫彦 ジャーナリスト

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いわさわ みちひこ / Michihiko Iwasawa

1966年、北海道・札幌生まれ。ジャーナリスト、ドキュメンタリー作家。報道番組ディレクターとして救急医療、脳死臓器移植などのテーマに携わり、「血液製剤のC型肝炎ウィルス混入」スクープで、新聞協会賞、米・ピーボディ賞。2016年、関西テレビ「ザ・ドキュメント 岐路に立つ胃がん検診」を監督。2020年4月、『やってはいけない、がん治療』(世界文化社)を刊行。

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