台数追わず、トヨタは今期予想も慎重に 円安効果薄れ、試される競争力

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4月16日、トヨタ自動車は、2015年3月期の業績見通しを例年通り慎重な見方で打ち出しそうだ。写真は同社のロゴ。ワルシャワで11日撮影(2014年 ロイター/Kacper Pempel)

[東京 16日 ロイター] -トヨタ自動車<7203.T>は2015年3月期の業績見通しを例年通り慎重な見方で打ち出しそうだ。為替動向や前提条件次第では、営業利益は前期並みや減益になる可能性もある。前期に6年ぶりの最高益更新が見込まれるが、今期はその原動力となった円安効果が薄れる。

トヨタは世界市場の先行きを楽観視せず、原価低減活動などで持続的成長を目指す。

今期「厳しくみている」

「決して調子に乗らない」――。前期が好業績でも、豊田章男社長は気を引き締める。前期は円安による恩恵が大きく、今期は業績達成のハードルがそもそも高い。今期業績予想の前提条件も「厳しくみている」(トヨタ役員)という。足元の円高など事業を取り巻くマイナス材料が多く、先行きは楽観できないからだ。

今期の主要市場の透明度は決して高くない、というのがトヨタの見立てだ。国内は消費増税前の駆け込み需要の反動減の影響が避けられない。米国でも利幅の薄い「カローラ」の販売が増えるほか、新興国でも低価格車が増加するなど車種構成の変化で採算が悪化すると想定しているもようだ。

新興国通貨安もリスクで、ベースアップ実施などで労務費も上昇する。アジアの収益源であるタイ市場の動向も懸念材料だ。タイ政府による購入促進策の終了に伴って需要が低迷。政情不安も長引いており、市場環境は一段と厳しさを増している。ホンダ<7267.T>も現地で年産12万台の4輪車工場を建設中だが、15年中としていた稼働時期の延期を検討している。

今期は円安という「神風」も吹かない。バークレイズ証券の吉田達生アナリストの試算によると、為替変動によって前期は9100億円のプラス効果となるが、今期は200億円のマイナスになる見通しだ。

トヨタ周辺の関係筋は、今期の業績は為替の水準で大きく振れることになるが、水準次第では、トヨタが打ち出す業績予想は減益の可能性があると話している。

大和証券の箱守英治アナリストも、会社側の今期営業利益予想は、為替前提などにもよるが、円高を前提とし「前期並みとなるような展開も想定される」と指摘。バークレイズ証券の吉田氏は「前提条件の置き方次第では、前期比横ばいや減益となる可能性も否定できない」と述べている。

<今期増益予想を求められるトヨタ>

一方、市場はトヨタほど先行きを厳しくみていない。国内は確かに反動減で落ち込むが、米国は回復が続き、欧州は底打ち、タイ以外のアジアは堅調との見方が多い。一時的な費用増加があったとしても、原価低減効果などで相殺が可能とみている。

トヨタは今期予想で最高益を示すことを求められている事情もある。前期の最高益から一転、今期減益となれば、アベノミクスの腰折れ懸念を招きかねないからだ。

賃上げでは政府からの圧力が働いたが、業績予想には政府も介入できない。とはいえ「減益予想はアベノミクスを否定することになる。政府からの見えない圧力は、少なからずあるだろう」(自動車業界アナリスト)との声も上がる。

バークレイズ証券の吉田氏は、今期の営業利益を2兆6000億円、大和証券の箱守氏も2兆5500億円と、ともに各氏の前期見込み比で約10%増を予想している。ロイターのスターマイン調査でも、アナリスト26人による予測平均値は約15%増の2兆6600億円。もっとも増益予想だとしても10%台の伸びにとどまり、成長は鈍化する。

原価低減と営業努力で最高益実現

トヨタは08年3月期の営業利益が2兆2703億円と過去最高益を記録し、翌09年3月期に4610億円の営業赤字に転落したという苦い経験がある。どん底から14年3月期の過去最高益に駆け上がった源泉は、お家芸とも言える原価低減活動と営業努力だろう。

佐々木卓夫常務は今年2月の4―12月期決算会見で、これまでの過去最高だった08年3月期に比べ、14年3月期のほうが「円高に振れており、車も(利益率の低い)小型車にシフトしている」と不利な事業環境であることを指摘。前期の最高益見通しには「営業面の努力や原価低減の努力の成果が出てきている」(同)と説明した。

実際、リーマン・ショック後の4年間で成し遂げた原価低減による営業利益の押し上げは累計1兆3000億円に上る。前期も4―12月期まででは2100億円と、期初計画の1600億円を上回る。販売増加などの営業努力によるプラス効果は、11年3月期から累計1兆2900億円。前期は800億円の期初計画に対し、4―12月期時点で1400億円に達している。

前期の好業績は原価低減と営業努力に加えて円安効果が大きいが、リコール問題での米司法省への和解金(約1200億円)、豪州生産撤退に伴う費用引き当てが一時的な費用として発生した。このため、市場では会社計画(2兆4000億円)をやや下回る着地とみているが、これまでの過去最高益(2兆2700億円)レベルになるのは間違いなさそうだ。

台数追わず「良い車づくり」で持続的成長へ

リーマン・ショックを皮切りにリコール問題、東日本大震災、円高などを立て続けに経験し、ようやく復活を遂げたトヨタ。今期は新たな成長ステージに乗り出す1年だ。

14年の世界販売計画は1032万台(13年は998万台)で、世界初となる1000万台を視野に入れる。それでもトヨタの「台数を追わない」という姿勢は崩さない。あくまで「良い車づくり」を追求する結果として販売台数がついてくる、という考え方を豊田社長は貫き通す。

「木の年輪はあるところで急に成長しても、そこは非常に弱いものになる。年輪は毎年毎年、持続的に同じ幅でやっていく(作られる)ことで強い幹に成長する」――。成長のペースが鈍化しても、中長期的に右肩上がりの成長軌道を描くことが大事だということも豊田社長が常に抱いている思いだ。

だが、ライバルの鼻息は荒い。独フォルクスワーゲン(VW)は18年にはトヨタを抜き、世界販売1000万台を7年前から目標にしていたが、ここにきて予定より早い14年に達成するとの見通しを示している。13年には973万台を販売し、米ゼネラル・モーターズの971万台を抜いて世界2位に浮上した。中国に続き、東南アジアでのシェア拡大に走っており、投資の手も緩めない。

社長就任以来、訴えてきた「もっと良い車づくり」が販売台数に結びつくかどうか。他社の追い上げによりトヨタがこれまで誇ってきた品質と価値の優位性も相対的に落ちつつある中、トヨタの真の競争力が試される1年となりそうだ。

(白木真紀、久保田洋子 編集:田巻一彦)

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