「違和感だらけの人生」にキレないための新提案 物事に「一喜一憂しやすい人」に伝えたい

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このような作品について「くだらない」と思う人も多いでしょう。ギャラリーを借りて招待状を出すだけ、紙に短文を書いて作曲と称するだけ、そんなの「芸術家」でなくても作れそうです。アイディア一発勝負です。芸術的才能や技能や霊感が必要とは思えません。

そこで最後に、「誰にでも作れる」わけではないポストモダンな作品を紹介しましょう。ミリオンセラーとなったライトノベルを原作とするアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』第2期(2009年)です。

角川書店などの製作委員会は、とんでもない企画を実行しました。シリーズの中の「エンドレスエイト」というエピソードを、8回連続で毎週放送したのです。毎回新作ではあるが、ほぼ同じ構図、同じセリフ、同じストーリー。この退屈な展開に視聴者は驚き、怒り、失望しました。

千篇一律のコンテンツ消費に溺れる人々を皮肉った企画とも解釈できるので、傷つきやすいファンたちは次々に視聴を脱落していきました。のみならず、ハルヒファンの多くがアンチに回ってしまったのです。

もちろん炎上し話題にはなりましたが、ハルヒシリーズのその後の展開に大きな影を落とし、ダメージのほうがはるかに大きい結果となってしまったのです。

人生は違和感の連続だ

「閉鎖されたギャラリー」「フルート独奏曲」「エンドレスエイト」──これらに共通する属性は、「鑑賞者の期待を裏切る」というものです。

とくに「エンドレスエイト」は、〈いわゆるアート〉とは関係ない快楽原則の萌えマーケットに禁欲的サプライズをあえて仕掛けた、前代未聞のトンデモ演出でした。裏切りによって「別のものの見方」を促すポストモダンアートは、アフターコロナ、ポストコロナの「新しい生活様式」のモデルを提供するはずです。

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楽しむばかりがアニメの消費様式ではない。違和感に溺れて自分を見つめ直せ、それもアニメだ。美や快、創造性を愛でるだけがアートではなかった。わけのわからなさに身を委ね、「こういうこともあるのだ」と気を取り直し続けるプロセスもアートだ。

……まったく同じように、普通に毎日の生活を営むことが人生の「常識」とは限らなかった。理不尽なトレンドや政治的配慮や同調圧力の中で、生活のリズムを狂わされ、憤ったり苛立ったりすること自体が「人生の常識」だった。人生何があるか決めてかかることができないのは当然だった。その都度軌道修正していけばいい。

そんな感覚に目覚めるきっかけを「アート的生活様式」は与え、そして研ぎ澄ましてくれるかもしれません。

三浦 俊彦 東京大学文学部教授

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みうら としひこ / Toshihiko Miura

1959年生まれ。東京大学文学部美学芸術学専修課程卒業。専門は美学・形而上学。大学で教えながら小説と哲学書を出版し、匿名でさまざまな芸術活動を行う。美術、音楽、文学の純粋芸術から映画、アニメ、格闘技、パラフィリアに至るまで、「アート」に関係するすべてを愛し、哲学的な視点で考察してきた「アートの哲人」。著書に『虚構世界の存在論』(勁草書房)『シンクロナイズド・』(岩波書店)、『論理パラドクス──論証力を磨く99問』(二見書房)、『論理学入門』(NHK出版)、『下半身の論理学』(青土社)、『エンドレスエイトの驚愕──ハルヒ@人間原理を考える』(春秋社)など。

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