コロナ疲れの米国人が「オバマ」に癒やされる訳 トランプにとって「厄介な障害物」な前大統領

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過去への郷愁が持つパワーは強力だ。新型コロナウイルスの脅威によって不確実性が高まっている今、穏やかで学者然とした前大統領の再登場は、比較対象となるトランプをいら立たせている。

アメリカでは4月から5月にかけて、この国で最も偉大なアスリートにしてプロバスケットボールNBAの元スーパースター、マイケル・ジョーダンの10時間のドキュメンタリーが放映され、人々を魅了した。オバマとジョーダン。現代において最も尊敬を集め、愛され、大きな業績を残した2人の世界的アイコンだ。両者にはシカゴという共通点もある。

ジョーダンはシカゴ・ブルズを6度の優勝に導き、シカゴを地元とする上院議員だったオバマはアメリカを金融危機から救った。このドキュメンタリーは、アメリカ人の過去への強い郷愁を象徴するものだ。大のブルズファンとして知られるオバマは、アメリカが大きな痛みと喪失感の中にある今、ジョーダン並みの鮮やかさで再び姿を現した(このドキュメンタリーにオバマは「元シカゴ市民」の肩書で出演している)。

オバマ時代へのノスタルジア

オバマは5月16日、黒人のために設立された大学と全国の高校の「バーチャル卒業式」でそれぞれスピーチを行った。この2回のスピーチがトランプを怒らせたことは間違いない。

ここでオバマは、現在の指導者たちは指導力を発揮する振りさえしていないと言った。トランプの名前は出さなかったが、誰のことかは一目瞭然だった。さらに「立派な肩書を持つ」指導者たちが、「小さな子どものように(自分にとって)都合のいい」ことばかりしているとも述べた。

アメリカ人はオバマ時代がいかによかったかを再認識しているところだ。ジョーダンのスーパープレーと同じように、テレビ画面に登場したオバマの姿は思慮深さと公共心、前向きなビジョンを思い起こさせてくれる。一方、トランプは新型コロナウイルスに関する記者会見で、スーパーモデルをどうやって誘惑したかを自慢していた。

オバマは大統領退任の1年後も63%の支持率を誇っていた。トランプの支持率はそれより20%以上低い。政治は比較の世界だ。ジョーダンと同じように、ほとんど並ぶ者なき存在だったオバマの再登場に、トランプは戦々恐々としている。

<2020年6月2日号掲載>

サム・ポトリッキオ(Sam Potolicchio)
ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人。
「ニューズウィーク日本版」ウェブ編集部

世界のニュースを独自の切り口で伝える週刊誌『ニューズウィーク日本版』は毎週火曜日発売、そのオフィシャルサイトである「ニューズウィーク日本版サイト」は毎日、国際ニュースとビジネス・カルチャー情報を発信している。CCCメディアハウスが運営。

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