中国の燃料電池車ブームは日本企業に追い風か トヨタや現代に加え、地場企業も開発に注力

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地場企業「中材科技」の商用車水素タンク(筆者撮影)

水素貯蔵システム分野では、天海工業、中材科技、瀋陽斯林達が主要地場メーカーである。水素タンクの素材と水素の充填圧力をみると、地場企業が金属製タイプの内張り材を利用しているのに対し、日本企業が高強度な樹脂材料を量産している。また、地場企業が35MPa(メガパスカル)タイプⅢタンクを使用しており、2025年には70MPaタイプⅣタンク(日本企業が使用中)の量産を目指している。

現在中国では、FCVや燃料電池の主要材料は輸入に依存し、地場企業のみでのFCV産業サプライチェーンの整備は容易ではない。今後外資系企業が参入すれば、産業全体のグレードアップを図り、市場シェアも大きく変化すると予測される。

FCVでトヨタと現代の争い

2019年のFCV世界販売台数は前年の2倍の7574台に達し、現代のネキソ(NEXO)が4818台でトヨタ自動車のミライ(2407台)を抜き世界首位となった。ネキソは70MPaの高圧水素貯蔵タンク3つを搭載し、わずか5分の充填で866㎞を走行できる。現代は2019年10月に中国でネキソの試乗イベントを開催した。また四川現代(独資子会社)で商用車向けのFCV生産を検討しており、2023年の生産開始を目指すと報道された。

トヨタの燃料電池車「ミライ」(筆者撮影)

トヨタは2015年からFCV特許を開放し、提携先を広げることでFCV事業の拡大を図ろうとしている。中国では、2019年に北汽福田汽車、中国一汽、金龍聯合汽車工業、北京億華通科技、上海重塑能源との提携を発表した。北京億華通科技と上海重塑能源科技はトヨタ製スタックを採用した燃料電池システムを地場メーカーのFCVバスに供給する予定だ。

一方、フォルクスワーゲン、BMWなど欧州自動車メーカーは今後EVに集中する方向を表明しているが、欧州系メガサプライヤーは燃料電池関連のビジネスも推進している。

ドイツのボッシュは、江蘇省無錫市で燃料電池の開発・生産拠点を立ち上げ、2021年に生産開始を目指す。同拠点はドイツに次ぐ燃料電池の一大開発・生産拠点となり、長距離走行のトラックなど大型商用車への供給を計画している。ケムニッツ工科大学と燃料電池研究室を立ち上げたドイツの独コンチネンタル、現代自動車に水素貯蔵システムを供給したフランスのフォルシアが今後中国でFCV部品関連事業を展開するだろう。

中国水素エネルギー聯盟(China Hydrogen Alliance)が2019年に発表した「中国水素エネルギー・燃料電池産業白書」では、2050年までに水素が中国エネルギー消費全体の10%を占め、水素ステーション1万カ所を建設する。また商用車市場に占めるFCVの割合が2030年に7%(36万台)、2050年に37%(160万台)に達し、乗用車に占めるFCV割合は、2030年に3%、2050年に14%に達すると予測される。

中国ではFCVモデル都市に対する奨励金制度が実施されれば、地方政府がFCV関連の資本誘致やインフラ整備に力を入れると思われる。水素製造や部品など高い技術力を擁する日本のFCV関連メーカーは、地方政府とリレーションを構築しながら、実力を持つ地場企業と提携し、事業展開を図ることは効果的であろう。

湯 進 みずほ銀行ビジネスソリューション部 主任研究員、中央大学兼任教員、上海工程技術大学客員教授

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タン ジン / Tang Jin

みずほ銀行で自動車・エレクトロニック産業を中心とした中国の産業経済についての調査業務を経て、中国自動車業界のネットワークを活用した日系自動車関連の中国事業を支援。現場主義を掲げる産業エコノミストとして中国自動車産業の生の情報を継続的に発信。大学で日中産業経済の講義も行う。『中国のCASE革命 2035年のモビリティ未来図』(日本経済新聞出版、2021年)など著書・論文多数。(論考はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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