今回の新型コロナにおける世界全体での死者数は、5月20日時点で約32万人。これ自体、絶対数としてとんでもなく大勢の方が亡くなっているが、ペストとは比較の対象にならない。ペストでは当時の欧州の人口の3分の1、国によっては8割以上の人が亡くなった。過敏になりすぎるのではなく、現実を踏まえたうえで冷静さを失わないことが重要であるということだ。
もちろんメディアは、ペスト再来だと、そう思ってほしいだろう。なぜならセンセーショナルに書けば新聞も売れるし、ネットのアクセス数も増えるからだ。
毎年アメリカでは4万人がインフルエンザで亡くなっている。全世界ではインフルエンザでは毎年、数万、数十万の死者が出ている。数字の上では、メディアが報道している恐怖とはほど遠いものと言える。
しかし、世界の人々は、すでに「恐怖」に支配されてしまっている。メディアやインターネットが反応しすぎているため、政治家も相応な対応をとる必要があり、積極的な措置をとらざるをえなくなっている。かつて、新聞を売るためにメディアは戦争や危機を煽ってきた。今回のコロナは現代版の「新聞を売る口実」と見ることもできる。(15ページより)
2020年の今はおそらく歴史に残る転換点となる
今回の騒動は、マーケットにとっては、人工的につくられた不必要なパニックなのだ。しかし、現実にパニックは起きているので、もうパニックや株の急落を止めることはできない。したがって、意図的につくられたか否かは別として、投資家は売り続けている、それが現実ということになる。売りを望んでいた投資家やメディアは成功したのだ。(16ページより)
かつてペストの流行は、中世を終わらせて資本主義の契機になったと言われている。もちろん比較の対象とはなりえないかもしれないが、今回の危機はなんらかの「社会革命」を引き起こすことになるのだろうか?
この問いに対してロジャーズ氏は、「社会革命とまではいかないが、数年、数十年かけて起こるべき変化を早く始める作用はあるだろう」と答えている。
例えば今回の騒動がきっかけとなって、通常なら在宅勤務しない人の在宅数が急激に増えることとなった。また、ネット通販やウーバーイーツが爆発的に勢力を拡大していることなども、変化と認識することができるだろう。
したがってロジャーズ氏は、この質問に対する答えをこう締めている。
おそらく、数年後に2020年という年を思い返すと「コロナ騒ぎがあったため、急激に変化が生じた」と言われるようになるだろう。すべての危機は新たなる変化を生む。だから日本語で「危機」という漢字が示す通り、「危機」が生じた後には「機会」が生まれる。(17ページより)
やがて訪れるその「機会」は、はたしてどのようなものになるのだろうか?
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いんなみ あつし / Atsushi Innami
1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「WEBRONZA」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」など紙媒体にも寄稿。『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)など著作多数。
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