このように厳密には「雇用」といえないギグワーカーに支えられている宅配サービス業界ですが、一方ではもともとの「雇用」を守る取り組みもあります。
出前館は、宅配寿司「銀のさら」運営のライドオンエクスプレスホールディングスなどと、休業や営業縮小を余儀なくされている飲食店従業員を支援するため、「飲食店向け緊急雇用シェア」プロジェクトを立ち上げました。
コロナによる外出自粛が収まったら元の雇用先や生活に戻りやすいという環境を確保したうえで、働けなくなった飲食店従業員が一時的にデリバリーの仕事に就くことで、安定的な収入を確保できる仕組みです。飲食店側にとっても、従業員の退職防止や、緊急事態宣言解除後に元の営業活動にスピード感をもって戻りやすい環境を作ることができます。
雇用の流動性低く柔軟な対応はレアケース
この危機に対応して、雇用を継続するために人材を貸し借りする従業員シェアは、極めて有効な取り組みにみえます。しかしそもそも雇用の流動性が低いという日本型雇用の特徴が影響してか、こうした柔軟な発想を実現するケースは残念ながら、いまだ稀有です。
「とにかくすぐにお金が必要だ。雇われる安心より目先の生活」と考える人もいます。一方で、「先々が不安だから職を失いたくない。雇用という安定が欲しい」という立場の人もいます。コロナ禍において、右往左往しながら揺れる個人の就業観に対して、宅配サービス業界は、いわば「両面待ち」の状態で仕事を提供しているのです。
「コロナが収まったら飲食の世界に戻りたい。できれば店も持ちたい。いま違う業界で雇ってもらえたとしても、それはそれで辞めにくくなる」。ウーバーイーツを始めた森山さんは、こうも語っていました。彼にとっては雇用ではないことも決め手のひとつだったのです。しかし森山さんの働いていたお店が、この「緊急雇用シェア」を知っていたら……。森山さんの選択は変わっていたかもしれません。
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