アメリカ株への楽観論はこれから崩れていく 市場は雇用の歴史的な悪化を無視している

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レストランや商業施設、劇場やコンサート会場が営業を再開し、現在失業している人々がそうしたところで再び職に復帰するまでには、まだかなりの時間がかかるだろうし、こうした雇用に関する先行き不透明感の強さは消費者心理を冷え込ませ、需要もさらに落ち込むことになるだろう。

今のところはまだ、インタネットを使ったサービスの躍進や、巣ごもり需要の増加がもてはやされている部分があるが、将来の仕事に復帰できる当てもなく、失業保険もいつまでももらい続けることが出来ない状況下に置かれている人々は、そうしたネットサービスすら利用をためらうようになるだろう。

一方、15日に発表された4月の小売売上高は前月比16.5%減と、過去最大の落ち込みとなった。カテゴリー別ではオンラインショップなどの無店舗販売が8.4%増加した以外はほぼ壊滅状態となった。これは消費者心理が落ち込んでいるうえ、ロックダウンによってショッピングをする機会自体が失われたことを如実に物語っている。

5月29日に発表される4月の個人消費支出も、過去最大の7.6%の減少となった3月を上回る落ち込みとなる可能性が高いと見ておいたほうがよい。一方で同じ15日に発表されたミシガン大学消費者信頼感指数は73.7と、前月の71.7から改善、市場予想も上回った。

だが、これはここまでの株価の回復と、政府による大人1人あたり1200ドルの補助金が支給されたことの効果が大きかった。一方で6カ月後を占う「同期待指数」は70.1から67.7に低下しており、2013年11月以来の低水準となっているのが気になるところだ。この先、株価が再び下落基調を強め、雇用の悪化に歯止めが効かなくなれば、消費者心理も一段と悪化することになるだろう。

時間とともに景気回復の楽観シナリオは後退していく

現時点では今年後半に経済が回復するという楽観的な見方もなお強い。それが株式市場の下支えとなっている部分が大きいが、それだけに、こうした楽観シナリオが崩れる可能性には注意が必要だ。今回の危機が金融ではなく、人の問題である限り、雇用の回復なくしては経済の回復もあり得ない。

つまり、通常は景気の遅行指標と言われ、景気を後追いするように改善したり悪化したりする雇用が、今回ばかりは先行指標となる可能性が高いということだ。厳密にいえば、雇用はやはり景気を後追いするものであり、経営者が景気の先行きに自信を持てない限りは雇用も増えてこないものだが、今回はとにもかくにも、大幅に落ち込んでしまった雇用が回復する見通しが立たないことには、何一つ事態は改善してこないだろう。

そのためには新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかかり、レストランや劇場の再開、飛行機での往来の活発化など必要あるが、ロックダウンの緩和による第2次、第3次の感染拡大のリスクも指摘されている中では、そう簡単な話ではないだろう。感染状況を睨みながら、ロックダウンの緩和と引き締めを繰り返す状況が続く可能性は高く、そうした状況下では雇用の本格的回復は望めない。今年後半はもちろん、来年の景気回復というシナリオさえ、時間の経過とともに崩れて行くのではないか。

松本 英毅 NY在住コモディティトレーダー

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まつもと えいき / Eiki Matsumoto

1963年生まれ。音楽家活動のあとアメリカでコモディティートレードの専門家として活動。2004年にコメンテーターとしての活動を開始。現在、「よそうかい.com」代表取締役としてプロ投資家を対象に情報発信中。NYを拠点にアメリカ市場を幅広くウォッチ、原油を中心としたコモディティー市場全般に対する造詣が深い。毎日NY市場が開く前に配信されるデイリーストラテジーレポートでは、推奨トレードのシミュレーションが好結果を残しており、2018年にはそれを基にした商品ファンドを立ち上げ、自らも運用に当たる。ツイッター (@yosoukai) のほか、YouTubeチャンネルでも毎日精力的に情報を配信している。

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