ソニー、マッキンゼー、DeNAで学んだこと 森本作也×瀧本哲史 対談(前編)

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英語の議論でどう主導権を握るか

瀧本:逆に言うと、森本さんクラスでも、インド人やパキスタン人に英語では負けてしまうわけ?

森本:やっぱりネイティブにはかなわないですよ。ただ意味のあることを言っている人と、そうじゃない人の違いはわかります。意味のあることを言っている人は、話が整理されているし、わかりやすい。でもスピードが速くてスラングが交ざってしまうと追いつけない。

そのときに生きるのが、マッキンゼーで描いたチャートです。チャートで整理して「こういうことだね」と言うと、言葉を弄するより上手に説明できる。議論というのは「言ったもん勝ち」で、言われっぱなしだと負けたことになるので、とにかく流れを止めなければいけない。そのときホワイトボードに「こういうこと?」と絵や図を書いて整理すると、みんなが僕のほうを向いてくれて、その場の主導権を握れる。実はそれでやっと自分も理解できるわけですが。

瀧本:そう、なにしろ共産国でいちばん偉いのは書記長ですから。書記が権限を持つ。

それでいよいよシリコンバレーで「モーションセンサー」を扱う「Canesta(カネスタ)」というベンチャー企業に入られた。なぜモーションセンサーだったんですか。

森本:僕はマッキンゼーで長いことモバイルデバイス業界のお手伝いをしていましたが、当時は90年代の半ばで、iモードの時代です。携帯で文字を入力するときの使いにくさが成長の大きなボトルネックでした。僕が声をかけられたカネスタという会社がつくっていたのが、バーチャル・キーボードという、光を上から投射して入力する仕組みです。

瀧本:僕もバーチャル・キーボードを見たときは、もうコペルニクス的な、天地がひっくり返るほどの発明だと思いました。要するにイメージセンサーなのに立体画像が撮れるという概念がすさまじい。今でこそ珍しくないけれど、12年前は、誰もそんなことを思いつかなかった。

森本:でも結局、コストがなかなか抑えられなくて、商品化に苦戦しました。技術がどんなに面白くても、それが育つプラットホームが成熟していないと、ビジネスとしては実現できないといういい例ですね。

瀧本:そうやってほかのアプリケーションを探す旅が始まった。

森本:そうですね。これはどこにもなかった面白い技術なので、さて何に使おうかといろいろ考えました。まずセキュリティ目的、それからゲーム、次に自動ドアとか人間の動きを捕まえる物体センサー、あるいは自動車の中で体の位置を測って、事故が起きたときにエアバッグが頭の位置を正確にとらえるとか、いろいろな使い道が検討されました。マーケティングの人間は2〜3人しかいませんでしたが、本当に世界の端から端まで駆けずり回りました。

それでまず自動車業界に、1台500万する3次元センサーが、3台立て続けに売れた。そうしたらカネスタの経営陣は、「ああ、自動車だ」と思ってしまった。実は自動車というのは、初期投資にけっこうおカネを使うけれど、そこから商品化まで5年、10年かかるというのを、ベンチャーだったわれわれはよく知らなかったのです。

カネスタは車内の認識システムとか、障害物センサーなどで、ホンダをはじめ日本やヨーロッパ、アメリカのいろんな会社と議論していましたが、なかなか商品化に至らない。安全に関する新商品は実用化のハードルが高くて、あるところまでいっても、また新たな課題が生まれて、「じゃあ、もう1回開発して」というやり取りがずっと続く。

これじゃラチが明かないので、ほかの分野を探そうと、今度はファクトリーオートメーションのセンサーなど、産業用の用途を探りました。こちらもそこそこの展開を見せましたが、産業用なので一気に商品化とはいかない。まさにアプリケーションを探す旅をずっとしていました。

そうこうするうちに、任天堂のWii(ウィー)が2006年に発売された。それが契機となって、ユーザーインターフェイスというものが急に注目され、問い合わせが一気に増えました。

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