衆院静岡補選、自民圧勝に安堵した意外な人物 岸田氏は「ポスト安倍」に踏みとどまったのか

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中でも、選挙戦を主導した岸田氏と岸田派の喜びぶりが際立った。故望月氏は岸田派の事務総長として自民各派との連絡調整に手腕を発揮し、岸田氏にとってポスト安倍戦略の要となる人物だった。それだけに、この補選を落とすようなことがあれば、「選挙に弱い岸田氏」との評が定着し、首相候補としての資質が問われかねない状況だった。

岸田氏は派閥幹部とともに26日夜の開票前から都内の事務所に陣取り、深沢氏の当選確実が報じられると、満面の笑顔で当選のバラをつけた。その後、記者団に対し「(政府のコロナ対策が)一定以上の理解、評価をいただいたのではないか」と語ったが、「ポスト安倍失格の烙印を押されかねないピンチを脱した」(岸田派幹部)との安堵感も隠せなかった。

現金給付案で珍しく指導力を発揮したが…

ただ、今回の選挙戦は主要野党の陣営がまとまりを欠き、しかも、「NHKから国民を守る党」が同姓同名の公認候補をぶつけるという「野党統一候補への妨害工作」(立憲民主幹部)ともみえる動きもあった。その結果、与野党対決ムードも削がれていた。

与党内には「自民圧勝は当然で、これが政権やコロナ対策への支持と考えるのは早計」(公明幹部)との声も多い。補選圧勝が岸田氏にとって追い風となるかはなお予断を許さず、岸田派幹部も「何とかハードルを乗り越えたが、失地回復への道筋はまだまだみえてこない」と慎重だ。

岸田氏は安倍首相の後押しでポスト安倍の最有力候補とされながら、世論調査における「首相にしたい政治家」では3~5%にとどまり、20%前後の支持でトップを走る石破茂元幹事長に大差をつけられている。「人柄はいいが、アピール力に欠ける」(細田派幹部)ことに加え、「政治理念や政策も安倍政治の亜流」(閣僚経験者)との印象が、国民的評価が低い原因とされる。

その岸田氏が珍しく指導力を発揮したようにみえたのが、コロナ対策での現金給付案だった。政策責任者として党内の異論を抑える形で「本当に困っている人に手厚い支給をすべきだ」と困窮世帯に限定して30万円を給付する案を決断し、安倍首相と連携して超大型経済対策の目玉として、補正予算案の閣議決定にこぎつけた。

ただ、もともとは一律10万円給付論者だった岸田氏が、同案に慎重な麻生太郎副総理兼財務相や菅義偉官房長官に忖度する形で主張を変え、「最終局面での安倍首相との直接会談で、首相が岸田氏に花を待たせたのが実態」(官邸筋)とされた。岸田派幹部は「目玉政策を安倍首相が後押ししてくれた」と喜んだが、党内は冷たかった。

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