脳科学者が教える良質な睡眠のための9の習慣 アルツハイマー病を避けるブレイン・ルール

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メディナ博士によれば、眠ることで節約できるエネルギーはわずか120キロカロリー、スープ1皿程度だという。それに比べて脳は、その人の全消費カロリーの内、なんと20%もの量を必要とする“大食漢”。しかも、昼夜なく働いているため、スープ1皿程度の節約では役に立たないという。

ではなぜ眠るのか? メディナ博士によれば、人が眠る理由の1つは「学ぶため」だという。

日中、さまざまな活動を記録し続けている脳の中では、大脳皮質と海馬という2つの領域が連携して記憶システムを稼働させている。この記憶システムは、記録したことを後で処理できるように、脳の所定の場所に記憶の断片を保管しているという。

一方、夜間の脳は、深い眠りの谷底に落ちる「徐波睡眠」と、浅い眠りで眼球がきょろきょろと動く「レム睡眠」とを、朝までに所定の間隔で5回繰り返している。

そして、日中に「後で処理」と付箋を貼って保管された記憶は、「その日の深夜、徐波睡眠中」に処理されることが科学者たちによって発見されているのだ。

人が最も深い眠りに落ちている間に、脳は記憶を再び活性化させている。その電気パターンを何回も繰り返すことで、記憶は堅牢になるという。これは「記憶のオフライン処理」と呼ばれており、この処理ができなければ、人は何かを長期的に記憶することはできない。人間は「休むため」に眠るのではなく、「学ぶため」に眠っていたのである。

睡眠不足で脳内に老廃物が蓄積

また、最近の研究では、脳は、「グリムファティック・システム」と呼ばれる有害な老廃物の処理を行う排水システムを持つこともわかっている。日中、活動しつづける脳は、大量のエネルギーを消費すると同時に、大量の老廃物を蓄積していく。そして夜間、排水システムが働いて、液体中の老廃物を分離し、血液中に排出していく。それらは翌朝の尿として体外へと出ていく仕組みだ。

このシステムが働くのも、深い眠りについている「徐波睡眠」の時間だ。そのため、寝つきが悪かったり、夜中に目が覚めてしまうなどして「徐波睡眠」にたどり着きにくい状態が続くと、脳内に老廃物がたまってしまう。これが脳組織を損傷し、認知機能の低下につながっているという研究もあるらしい。

かねて、この排水システムの働きを裏づける報告は数々なされている。慢性的な睡眠不足は、パーキンソン病やハンチントン病、アルツハイマー病などのリスク要因であることが知られており、また、長距離の国際線に長く乗務した客室乗務員など、睡眠サイクルが乱れがちな人は、アルツハイマー病の兆候と見なされる海馬の異常な収縮が確認されたという。

メディナ博士は「睡眠不足はアルツハイマー病のリスク要因であると見なせる」と断言し、「この事実ひとつとっても、どの年齢の人も良質な睡眠をとるべきだ」と主張している。

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