三陽商会「5カ月で社長交代」の厳しすぎる現実 新型コロナに加え、ファンドと委任状争奪戦

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一方、4月14日に発表された再生プランは中山社長と練った策であるため評価が低い。細水氏は「目先の黒字化計画に過ぎず、強力なブランド育成やビジネスモデルの転換など長期的に黒字を維持するための成長戦略が示されていない」と切り捨てる。

RMBは2019年末にも第三者への会社売却を検討するよう提案するなど、経営体制の見直しを求めてきた。中山社長は「会社側の考えを丁寧に説明して理解を得ていきたい」と語るが、今後も双方の話し合いが平行線をたどれば、株主総会で委任状争奪戦へと発展する可能性がある。

「貴族のような気質」を変えられるのか

大江氏は三陽商会を変えられるのか。消費環境の変化にいまだ対応できていない同社を変えるのには骨が折れそうだ。

あるアパレルOEM会社の幹部は、「(「23区」などを展開する)オンワードホールディングスはEC強化などの目標を決めたら兵隊のごとく徹底的に実行する。対する三陽商会は、特に中堅以上の社員や経営幹部の間でまったりとした貴族のような気質が抜けない。打ち出す新規施策も後手の印象が強い」と語る。新たな戦略を打たずともバーバリーが売り上げを支えてくれた時代が長かったことで、三陽商会は変化への対応力が培われなかったようだ。

現預金や不動産など保有資産が潤沢なことも、かえって会社の経営に対する危機意識が高まらない要因となった。

2018年夏の決算会見で、当時の岩田社長は「現預金はかなり潤沢にあるので、売り上げを上げる投資を行っていく」と発言。翌2019年に、手薄な20~30代向けの新ブランド「キャスト」を立ち上げて約30店舗を一気に出店。銀座の自社ビルも巨費を投じてリニューアルした。

が、キャストも銀座の自社ビルでの販売も、想定した売り上げを確保できなかった。大手アパレルの幹部は、「このアパレル不況の時代に新ブランドを30店も一気に出す勇気は到底ない。資産があるからできるのでは」と苦笑する。

会社の気質を一朝一夕に変えるのは難しい。今回の人事では社外取締役を2人から6人へ大幅増員し、ガバナンス機能の強化をうたうが、大江氏と同じ三井物産や百貨店の出身者を含むメンバー構成に、複数の業界関係者は「お友達人事ではないか」と首をかしげる。

現預金と保有有価証券は約5年前比でおおよそ半減し、2020年2月末時点で219億円。新型コロナの影響が長引けば、一層のリストラや事業整理を迫られる可能性もある。遅すぎた改革の下、会社とブランドを存続させていけるのか。大江新体制は、重責を背負ってスタートする。

真城 愛弓 東洋経済 記者

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まき あゆみ / Ayumi Maki

東京都出身。通信社を経て2016年東洋経済新報社入社。建設、不動産、アパレル・専門店などの業界取材を経験。2021年4月よりニュース記事などの編集を担当。

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