現金をおろすときは3万4000円、小銭入れは持たない--『節約の王道』を書いた林望氏(作家・書誌学者)に聞く
自称「歩く合理主義者」が、その節約生活を多彩に語りおろした。40年間実践してきただけに、その極意は筋金入り。この「こだわりの書」がロングセラーになる勢いだ。
--巻頭にある「たのしみは妻子(めこ)むつまじくうちつどひ頭(かしら)ならべて物をくふ時」ほか、橘曙賢(たちばなのあけみ)の8首の和歌が出色です。
橘曙賢は明治維新になる直前に亡くなった福井の人。藩主の松平春嶽がその令名を聞いて訪ねて行き、あまりの貧乏さにびっくりしたという。だが、書物だけはきちんと積んである中で、家族むつまじく暮らす、人間の幸せの見本のような人だったようだ。
節約というと、水道の栓を締め電気を消してとか、1円、2円のおカネをちまちまとケチるノウハウ本がほとんど。そういった形而下的な現象的な問題ではなく、もっと生活全体、生き方全体の問題ととらえたい。橘曙賢が目指した生活を幸福だと思っていれば、別にカネはかからないというメッセージとして引用した。
--序章で、西鶴からの引用も。
井原西鶴が大学の卒論だった。合理的でないことは一切やりたくない。自ら称して「歩く合理主義者」としてきた。結局、「節約の王道は合理主義にあり」といいたい。合目的な営為に立ち返るのがいちばんいい。そこで王道という男性的な、こせこせしないタイトルをつけた。
--食を例にとると。
何をいちばん節約すべきか、それは時間。それがメインテーマといっていい。たとえば料理にしても、過大な時間を使ってはいけない。たとえば冷蔵庫の中のものを全部食べつくすまでそれで食べ、そして時間をかけずに料理をして、自分自身のために使う時間を捻出する。その時間で自分の人生を豊かにすることをやるのが人の道。私自身は毎日料理し、それを実践している。