首都圏「通勤電車減便」、テレワークで現実に? 関西では大阪メトロが4月11〜12日に本数減

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もちろん、大きな削減段階においては「医療従事者」「インフラ」「公務員」など本当に必要な労働者たちだけが使えるよう厳に訴えることが必要である。

それではいざ定期ダイヤから減便ダイヤへ移行するにあたり、運行側にどのようなハードルがあるのか。本来、鉄道はあらかじめ決められた定期ダイヤに沿って運転しているので、例えば減便にしても単純に時刻表上の本数を減らせばいいだけではなく、その裏にある列車に必要な定期検査をするための車両の運用や、乗務員の運用(どこで交代したり、休憩したりするか)もダイヤ変更に合わせて検討しなければならない。

また、もし減便ダイヤの下で事故や遅延が発生すれば、指令所は普段と違うダイヤ上で運転整理をしなければならず、相互直通先との調整や、一分一秒を争う鉄道運行の中で普段の手法とは異なるのでスムーズな運用ができない、ひいては誤った運用によるさらなる混乱も考えられる。車両数や留置スペースに余裕のない事業者にとって、イレギュラーなダイヤというのは難儀するものになる。たとえ、減便ダイヤがもともと準備されているとしても、いざ実施するとなるとオペレーター側にとっては緊張感があるだろう。なので、すでに定期運用として存在する土休日ダイヤであれば、切り替えが比較的しやすいのだ。

現場の感染で通勤電車半減も

もともと感染症拡大時のBCPダイヤは社員の欠勤が前提にあるが、今回の場合は予防のための減便で、例えば健康な社員が会社からの要請により待機することとなれば、給料補償の問題も発生し、結果として人件費を削ることには繋がらない。

3月5日付記事(運転士コロナ感染なら通勤電車「半減」の危機も)でも述べたように、現場職員側に拡大すれば否応なく減便になってしまう。今月には北鉄金沢バスのバス運転士が感染したため、運休措置を取る事態になった。

そして、4月11日付記事(職員1500人が感染「NYバス・地下鉄」運行命がけ)にもあるように、このよう事態となれば国内もいつ鉄道が減便・運休してもおかしくない。

連日感染者数が増加する中、これ以上状況が悪化するのであれば、世はまさに「緊急事態」、鉄道という社会インフラの削減もやむをえない。未曾有の危機に対して、私たちはいつでも最悪を想定し、当たり前に動く交通が止まるということを受け入れられる社会をいよいよ作らなければならないフェーズに入ってきた。

西上 いつき 鉄道アナリスト・IY Railroad Consulting代表

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にしうえ いつき / Itsuki Nishiue

大阪府出身。関西大学商学部卒業後、名古屋鉄道株式会社に入社。運転士・指令員などを経験したのち退社。その後、外資系企業を経てIY Railroad Consultingを設立。著書に『鉄道運転進化論』(交通新聞社新書)、『電車を運転する技術』(SBクリエイティブ)。東京交通短期大学非常勤講師。二次交通「RYDE」エバンジェリスト。Yahoo!ニュース公式コメンテーター。鉄道系YouTuberとして「鉄道ゼミ」を運営。地域おこし協力隊(銚子電鉄)。まちづくり戦略研究学会監事。

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