再建中の東芝が「東証1部復帰」にこだわる事情 株価を引き上げ、アクティビスト追い出しへ

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東証1部上場のメリットは、「優良企業」という勲章や誇りが伴うだけではない。企業の信用力が増し、資金調達がしやすくなる。ただ、東芝は2018年に虎の子だった半導体メモリー事業を約2兆円で売却するなど、手元のキャッシュは潤沢だ。そのため、「(1部昇格の狙いは)資金調達がファーストプライオリティではない」(市場関係者)という見方が多い。

東芝が1部復帰を急ぐ本音は、「モノ言う株主(アクティビスト)の排除」にほかならない。2017年に実施した6000億円の大型増資により、アメリカの投資ファンド「キング・ストリート・キャピタル・マネージメント」など、百戦錬磨の外資系投資家が東芝の大株主に名を連ねている。

株価や業績を高めるよう、事あるごとに経営陣に短期的成果を迫り続けている。東芝が生きるか死ぬかの危機的状況下では、投資家の支援は心強かったが、成長を最優先させる今となっては東芝経営陣の悩みの種となっている。

「株価6000円」も視野に

大型増資とともに、東芝は2019年までに7000億円という巨額の自社株買いを実施したが、モノ言う株主が応じることはほとんどなかった。「東芝の株価は割安であり、もっと上がる」とみている株主が多く、アクティビストはいまだに東芝株の3割を保有しているとみられる。

東芝は再建過程でアメリカの液化天然ガス(LNG)や半導体メモリーなど、リスクが高かったり、採算の低い事業を次々と整理しており、現在はインフラやエネルギーを中心とした事業構造に転換。収益の振れがない、比較的安定したビジネスモデルとなった。

現在はさらにそれを、ハードの単体売りからIoT(モノのインターネット)を中心にしたサービス事業での成長投資を増やそうとしており、優秀な外部人材を多く採用し始めている。

東芝の株価は、新型コロナショックが本格化する前の2019年末から2020年初めまでは4000円前後で推移しており、2部に降格した当時と比べて1000円ぐらい高い水準だ。1部復帰でTOPIXなどの株価指数に採用されれば、新たな投資資金を呼び込めるため、市場関係者からは「6000円も視野に入ってくる」との声も上がる。

株価が上昇すれば、キャピタルゲインを求めるアクティビストらも東芝株を売却しやすくなり、その代わりに長期的な視野で東芝株を保有する機関投資家が安定株主となってくれるとの期待が東芝にはある。

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