富山LRT、直通運転で消えた便利な「セルフ乗車」 2022年開業予定の宇都宮では導入目指すが…

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IC乗車券利用に限りセルフ乗車を導入し現金客を在来の運賃収受方式で残すと、当然ながら運転士が運賃収受することになり、現状の問題の解決にはならない。

セルフ乗車取りやめの掲示(筆者撮影)

そもそも、運送契約なしで(乗車券を持たずに)乗車して降車の刹那に現金を料金箱に投入するという現金客の運賃支払い方式は、一見合理的のようだが前時代的だ。

セルフ乗車は、現金客(1回券利用者)や1日乗車券利用者にも導入するのが当然であり、既存のICカード乗車券システムに加えて現金乗車に代わる1回券システムの構築が必要になる。券費が安い乗車券、安価な券売機と安価な乗車券リーダーが要る。その点では、「ゆいレール」(沖縄・那覇市)で実用に供されているICカードとQRコード乗車券(「1日乗車券」と「区間乗車券」(1回券)に対応)の併用システムは、将来的にこの課題を解決する一案として注目される。

セルフ乗車導入コストの負担は地域全体で

国土交通省のホームぺージは、LRTの整備効果を、①交通環境負荷の軽減、②交通転換による交通円滑化、③移動のバリアフリー化、④公共交通ネットワークの充実、⑤魅力ある都市と地域の再生、と説明している。

つまり、LRTの整備による受益者はLRT利用者だけではなく、その地域の住民、事業所とその従業者など地域全体である。したがって、MaaSの時代にふさわしい公共交通整備のためのセルフ乗車導入コストは地域全体で負担(公金の投入)する必要があると合理的に説明できる。公的支援の拡充が必要だ。今回、富山でセルフ乗車を旧富山地方鉄道富山軌道線に拡大できなかったのは財政的な問題だったかもしれない。

いずれにしても、諸外国の市民が日々享受している路面電車の高い機能と利便性を、わが国の市民が享受できない状態を放置しておいてよいはずがないばかりか、「LRTでまちづくり」も不可能だ。MaaSの時代にセルフ乗車の採用は不可欠である。

まずは、各方面の方々にセルフ乗車導入の必要性を理解していただきたい。

柚原 誠 技術士(機械部門)

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ゆはら まこと / Makoto Yuhara

1943年生まれ。岐阜大学工学部卒業。名古屋鉄道入社。鉄軌道車両の新造、改造、保守業務に従事。運転保安部長、交通事業本部副本部長、代表取締役副社長・鉄道事業本部長・安全統括管理者を経て2009年退任。この間に「人に優しい次世代ライトレール・システムの開発研究に関する検討会」に委員として参画。鉄道友の会副会長。技術士(機械部門)。

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