富山LRT、直通運転で消えた便利な「セルフ乗車」 2022年開業予定の宇都宮では導入目指すが…

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この結果、すべての扉で一斉に乗り降りが可能になって乗降時間が短縮され、乗った扉から降りることによって車内移動が不要、大きな車両でも何両連結でも使用できるようになり輸送力が増加、パーク&ライドやバス&ライドに対応、ベビーカーや車いす置き場の十分な確保が可能になった。

フランス・ストラスブールの最新型は長さ45m定員300人(筆者撮影)

セルフ乗車は運賃収受が難しく利便性が低く、輸送力が小さいという路面電車の弱点を、解消したばかりか、アクセス性のいい乗り物という「強み」に変えた。セルフ乗車はヨーロッパ、北アメリカに普及し、香港、台湾にも導入された。

利便性向上に無関心

1997年にドイツ製の超低床車が熊本市電に就役し、わが国にもヨーロッパのようなLRT(低床、セルフ乗車などの特徴を持つ近代化された路面電車。わが国では次世代型路面電車と呼ぶ)時代の到来が近いと期待されたが、20年余が経過した今も実現していない。

ドイツ生まれの超低床車は今では5都市に就役しているが、これらは、原設計のセルフ乗車仕様を車掌乗務や「運転士が運賃収受するワンマン運転」仕様にわざわざ設計変更して導入された。超低床で乗り降りは楽ではあるが、残念ながら「LRTスタイルの旧世代型路面電車」だ。

わが国ではセルフ乗車の重要性が十分に認識されていない。このことは、『「公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり」を核に、人と地球環境に優しいまちづくりを進めています』(市のHP)という富山市でさえ、セルフ乗車をいとも簡単に取りやめてしまったことからも明らかだ。

わが国での路面電車近代化は、車両の高性能化、超低床化や停留所の改良などハード面に限られており、セルフ乗車の導入による路面電車システムのバージョンアップにはいまだに手を付けていない。路面電車の弱点を宿命と諦めて、これを克服する手を打ってこなかったわが国の路面電車の機能と利便性は、今日では諸外国のそれとは天と地ほどの隔たりができてしまった。

富山ライトレールはセルフ乗車をやめてしまったが、わが国で実施している例もある。西日本鉄道の福岡市内BRTバス、広島電鉄(1000形16編成のみ)は、ICカード乗車券利用に限りセルフ乗車を導入し、無人の後部の乗車扉から降車できるようにしている。また、2022年3月の開業を目指して建設中の宇都宮ライトレールは、セルフ乗車を導入(現金での乗車も認め、運転士が運賃収受)すると公表している。

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