壁が見えなくなるほど「ウルトラマン」のコレクションで埋め尽くされている8畳の部屋。駅徒歩15分。キッチンがついた1Kの賃貸物件です。
デザイン会社に勤めるウルトラの母さん(35歳)は、小学校に上がる前の息子さんと、この部屋で寝食を共にしています。
「ウルトラマン」は親子共通の趣味。ウルトラの母さんはウルトラヒーロー、息子さんは怪獣が好きなので、コレクションはどんどん増える一方です。ソフビ人形だけでも約400体。飾りきれていないグッズも棚にぎっしり収納されています。
もともと「ウルトラマン」もスーパー戦隊シリーズにもさっぱり興味がなくて、できるだけ子どもにも見せないように育ててきました。
「キャラクター物の服はダサいと思ってて、着せていませんでした。親のエゴですけど……」
しかし、いまでは親子で毎日「ウルトラマン」作品を観て、週末にはヒーローショーに通う生活を送っています。
「ウルトラマンって新しいシリーズにも、過去のウルトラヒーローたちが出てくるから、玩具が古くならないんですよ。見続けるほど登場人物にも玩具にも愛着が湧いて、そこも好きなんです」
熱っぽく語る様子は往年のファンのようですが、ファン歴は意外にもまだ3年目。偶然見かけたヒーローショーに親子で強烈に心惹かれたその日、ウルトラの母さんはシングルマザーになったばかりでした。
彼女がどうして突然ウルトラマンに心惹かれたのか。そこには働くシングルマザーの苦悩と喜びがありました。
絶望から助けてくれたウルトラマン
3年前、夫が突然家から出て行ったきり戻って来なくなりました。
だらしない人ではあったようですが、さすがに小さな子どもを残していくとは思えず、しばらくはウルトラの母さん1人の稼ぎで、3人で暮らしていた家を維持していました。
彼女は高校を卒業してすぐに働き始めて、出産の前日にも出社していたほどの働き者なのです。
しかしそうは言っても、家賃も養育費も1円たりとも振り込まれない状態で、子育てと仕事をしながら生活を支え続けるのは不可能でした。
半年後、夫が戻ってくる気配もなく、次第に貯金も底をつきそうになったため引越しを決意。
「ただでさえ親の都合で子どもに悲しい思いをさせているので、これ以上息子の生活環境を変えて振り回したくなくて、同じ保育園の近くで物件を探しました」
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