知らぬ間に進んでいたJR東海「テキサス新幹線」 バイデン氏は高速鉄道支持派、政局も影響か

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アメリカになかった鉄道の仕組みだけに、従来の鉄道の安全基準はテキサス高速鉄道には当てはまらない。例えば、従来の安全基準では、鉄道車両は衝突リスクを前提に頑丈な構造にする必要があるが、衝突リスクがない新幹線方式の場合は、車両の設計要件も違ってくる。

そこでTCは2016年、テキサス高速鉄道に特化した新たな安全基準の作成をFRAに申請した。FRAは約3年かけて新幹線の安全性や日本の状況を調査。問題ないと判断され、2019年8月に特定のプロジェクトにのみ適用される安全基準である連邦規則案(Rule of Particular Applicability)の制定に向けた手続きを開始した。それから半年後、連邦規則案がようやく完成し、3月10日に公表されたというわけだ。

内容は車両、信号、運行管理システム、運行手順、保守など多岐にわたり、踏切がないことも明記されている。また、「鉄道業界全般ではなくテキサス高速鉄道だけに適用される」というただし書きがある。こうした特定の路線に限った安全基準が作成されるのは「極めて異例」とアメリカの鉄道事情に詳しいJR関係者が話す。

「日本の新幹線」をアメリカ当局が評価

JR東海の担当者は、「連邦規則の制定はプロジェクトの実現に向けて欠かすことのできない要素であることから、連邦規則案が公示されたことは、プロジェクトにとって非常に大きな前進である」という。

これまでは、アメリカの安全基準を満たさない日本の新幹線が本当にアメリカ国内を走れるのか、といった懸念もくすぶっていたが、走行には問題ないと当局が認める意義は大きい。さらにこの連邦規則案では、テキサス高速鉄道のコアシステムは東海道新幹線のシステムを複製し、東海道新幹線が1964年の開業以来約60億人が利用し、乗車中の乗客が死亡に至る列車事故が起きていないことが、信頼性を示すものとして触れられている。アメリカの当局が新幹線をきちんと評価していることが読み取れる。

この連邦規則案は5月11日まで2カ月にわたってパブリックコメントが募られる。それを踏まえて特段の問題がなければ、必要な修正を経てテキサス高速鉄道の連邦規則として認められるわけだ。

連邦政府の官報には3月18日時点で8件のパブリックコメントが寄せられている。ただ、コメントの中には「日本人がテキサスの土地を所有する」といった誤解も見られ、市民の理解が不十分であることを感じさせた。

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