向井千秋氏「日本はロケット以外で宇宙を戦え」 日本人女性初の宇宙飛行士が提言する戦略
――ロケット以外では具体的にどのような分野で日本は強みがあるのでしょうか。
高い技術力を売りにするという方法がある。例えば、小惑星リュウグウの探査で使われた「はやぶさ2」は、ピンポイントで着陸する高い技術を持っている。今後、月面探査などでも使える技術だ。先進的な開発を行い、ニッチな技術を売り続けるのはリスクが少ないだろう。
人工衛星も、小型化が進んで開発が容易になる中で観測に必要な小型センサーの技術力が求められている。人工衛星から観測した衛星データを、気象予報や農林水産分野で分析して販売するデータビジネスもすでに存在する。もの作りでも「日本企業が作るこのネジでないといけない」という部品がある。
少しだけ背伸びして、先を見て技術開発をしてほしいが、まったく身の丈に合わないことをやっても長続きしない。それこそばくちになってしまう。予算や人材の規模などを考えて、継続的に技術開発が可能な分野を考えることが大事だ。
その点では、今後宇宙に人類が大勢出かけたり、定住したりするようになったときのことを考えて、宇宙でクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を維持するための分野も日本企業に期待できる。
衣食住では日本が世界をリードできる
――宇宙でのQOLとはどういう事業を指すのでしょうか。
食や住居など、人の暮らしに関わる分野のことだ。アメリカ政府は2020~2030年代に月や火星の有人探査を行う「アルテミス計画」も始動させ、月や火星で人類が暮らしていくことが現実味を帯びつつある。
東京理科大学でもスペースコロニー研究センターを立ち上げた。民間企業と協力し、宇宙に長期滞在するのに不可欠な衣食住分野の研究を行うためだ。すでに宇宙居住に関する技術を実験するための「スペースコロニーデモンストレーションモジュール」を清水建設などと協力して作った。宇宙という限られた資源しかない閉鎖空間で暮らすために、エネルギーを循環して使うことや、省エネ資材を使うなど新たな技術開発が必要だ。
食の分野でも、日本の食品企業は機能性食品や加工食品で高い技術力がある。例えば、カゴメの野菜飲料や日清食品のインスタントラーメン、大塚製薬の栄養食品や健康飲料、ヤクルトの乳酸菌飲料など数多い。
とくに機能性食品には期待している。日本は食に対する新鮮さや楽しみ、季節感に関する意識が諸外国よりも高いと思う。アメリカでは栄養が不足しているものがあれば、とりあえずサプリメントを飲む。宇宙でもサバイバルという意識だが、食べるという楽しさがなければ、宇宙で生活を継続していけないだろう。
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