「Dr.コッパー」は「コロナ暴落」を予言していた 新型肺炎による市場の異変は「察知」できた

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なお、アメリカの製造業サーベイは伝統と知名度で勝るISM製造業と、マクロファンダメンタルズの予測精度が高い製造業PMIがあり、どちらも株価との連動性が強いことが知られているが、両者は2019年後半以降、不可解な乖離が生じているため、グラフは両者を平均したものを用いた。また、1月データは比較対象となる2019年1月実績が低かったことによって株価の強さが誇張されていることに注意されたい。

アメリカ株が新型コロナウイルスの悪影響を軽視して、マクロファンメタルズでは説明のつかないレベルまで噴きあがるのをよそに、冷静に警鐘を鳴らしていたのは「銅」である。

「炭鉱のカナリア」、「ドクターコッパー(カッパー)」との異名を持つ銅は、今回も鋭い嗅覚を発揮した。今回、新型コロナウイルスの感染拡大懸念に真っ先に反応し、実は銅価格は1月下旬頃から急落していたのだ。つまり、その約4週間後に訪れる株価下落を見事に察知したことになる。

過去5年、銅価格が株価(S&P500)の先行指標として機能したケースは(1)2015~2016年のチャイナショック、(2)2018年10~12月のFED金融引き締め局面で生じた株価下落が代表的であるが、今回も見事に先行指標としての役割を果たした(※銅価格のみを注視しても十分な示唆を得ることができるが、同時に安全資産としての金に注目し、両者の相対価格をみる方がより良い示唆が得られる。先行指標としては相対価格の方が優秀)。

銅価格が急落した場合は「今回は違う」と判断しない

実のところ、筆者は銅価格急落を目の当たりにした2月上旬に「銅価格急落は不気味だが、製造業が集積する中国の生産活動減速が予想されているのだから、下落は自然に思える。また昨年夏頃に底打ちした世界の製造業サイクルを踏まえると、目下の銅価格下落は行き過ぎているようにみえる。したがって、株価急落のシグナルとは言い切れない」と判断してしまっていた。今思えば、筆者もアメリカ株市場が包まれていた楽観の中におり、冷静さを失っていたと反省する。

以上をまとめると、足もとのアメリカ株を中心とする世界的株価下落は(1)新型肺炎の感染拡大懸念があるのは間違いないが、それ以前のアメリカ株過熱がベースにあった。そして(2)銅価格は株価(急落)の先行指標として今回も重要な役割を果たした、という具合である。

今後、株価が過熱領域にある時、銅価格が急落した場合は「今回は違う(今までとは違うので過熱ではない)」などと判断せず、そのシグナルを「機械的に受け止める」。これが今回の株価急落から得られた貴重な教訓である。

藤代 宏一 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

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ふじしろ こういち / Koichi Fujishiro

2005年第一生命保険入社。2010年内閣府経済財政分析担当へ出向し、2年間『経済財政白書』の執筆や、月例経済報告の作成を担当。その後、第一生命保険より転籍。2018年参議院予算委員会調査室客員調査員を兼務。2015年4月主任エコノミスト、2023年4月から現職。早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。担当は金融市場全般。

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