死んだ娘とVRで再会した母親が賛否呼んだ理由 自閉症の不安を緩和することにも成功
VR画像の中にそっくりのナヨンちゃんを再現させる作業は、家族が生前に撮影した写真や動画から、ジェスチャー/声/喋り方を分析することから始まったという。そして、不足部分は同じ年ごろのモデルに動いてもらい、160個のカメラで360度撮影できるモーションキャプチャー技術を用いたという。
さらに、声の部分はセリフをしゃべらせるために、ディープラーニングと呼ばれるAI技術を駆使している。生前の1分余りの声データに5人の同年代の子どもの声をそれぞれ800文章ずつ録音して、それをAIでナヨンちゃんの声に再構築するのである。気になる製作費だが、番組制作費1億ウォン(920万円)だったと公表されており、そのほとんどがナヨンちゃんのCG制作に使われた費用だという。
このようにしてできたVR映像は、今でもYouTubeやVR会社VIVEスタジオの会社HPで観ることができる。
10分程度のVRの内容は、ナヨンちゃんが林の中に登場し、母親と再会し、その後誕生日を祝う。ケーキの横にはナヨンちゃんが好きだった「꿀떡クルトッ」と呼ばれる韓国のお餅も並んでいる。これは、制作過程のインタビューで事前に父親からナヨンちゃんの好物をリサーチし反映させたのだという。
その後、母親へ手紙を読んで、ベッドに横たわる。「もう悲しまないで、思いつめないで。ただ、愛してね」と告げて眠りにつくナヨンちゃん。多少、アニメっぽさはあるにしても、顔や声はVR体験をした家族には十分な再会となった。
亡くなった家族に会いたい人びと
この特番を担当したプロデューサーのキム・ジョンウ氏は、企画のきっかけをこう語っている。「会社の同僚がチリ山に星を見に行った。理由を聞くと亡くなって天にいる家族に会いたいからだという。それを聞いてこのプロジェクトを思い立った。企画を進めるなかで、記憶とは一体何だろうと悩み、ただ見世物にするだけではなく心に深く寄り添ってみようと考えた」という。
VR制作監督を務めたVIVEスタジオのイ・ヒョンソク氏は、初めこの企画を聞いた時、「慎重になるべきだ」と考えたという。その後、母親ともミーティングを繰り返し、どのような考えと哲学を持っているか十分話し合って企画の実行を決めたと語っている。
確かに、愛する者を失くした心の治癒になるかもしれないが、その傷が深かった分、しっかりした考えを持っていない場合、どこかのSF映画のように仮想現実の世界にのめり込んでしまう危険性もありえる。