日本が「中国人入国禁止」にできない3つの事情 韓国・台湾に前例、インバウンド市場を直撃

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もし中国人を入国禁止にしたならば、日本の観光産業が受ける影響は計り知れない。これが中国人の全面的な入国禁止措置に踏み切れない大きな要因だと考えられる。

また、4月に習近平国家主席の国賓としての来日が予定されている。2月末には最終調整のため、中国の外交担当トップである中国共産党中央政治局委員の楊潔篪(よう・けつち)氏も来日することになっている。安倍政権が中国人を入国禁止にしないのは、習主席の訪日前に両国の友好ムードに水を差したくないからではないか。これは日本のメディアからも指摘されている。

そして、7月に開幕する東京オリンピックである。東京オリンピックも安倍政権が推し進める観光立国政策の重要な柱だ。日本政府は、中国人の入国禁止がオリンピックを含めた今後のインバウンド需要にどう影響するかを試算したはずだ。なお、オリンピックの延期や中止の検討については、2月13日に大会組織委員会の森喜朗会長が「政府と連携し、冷静に対応する」と述べるにとどまった。

中国人依存度の高さが忖度を招く

日本はなぜこうも、中国や中国人観光客に忖度するのか。シンガポール国立大学東南アジア研究所のルパック・ボラ客員研究員は、香港の『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』上で、日本のインバウンド市場が抱えるリスクについて警告している。それは中国人観光客への依存度の高さだ。

中国からの訪日客は日本に大きな利益をもたらしているが、同時に両刃の剣になりうる。日中両国の政治的な友好ムードが崩れたら、中国人観光客は中国政府にとって日本に経済的ダメージを与えるための武器となるだろう。

ボラ氏の警告には根拠となる前例がある。アメリカが2017年、在韓米軍に地上配備型ミサイル迎撃システム「THAAD」(サード)を配備したときのことだ。韓国にとってTHAAD配備は、北朝鮮の弾道ミサイルへの対抗策となるはずだったが、意に反して中国からの激しい反発を招いてしまった。韓国へのTHAAD配備を受け、中国政府は中国人の韓国への渡航を規制した。この措置は韓国の訪韓観光市場に大打撃を与え、事実上の経済制裁となった。

台湾総統選の半年前である2019年7月には、中国政府は大陸から台湾への個人旅行を禁じ、台湾の旅行業界にも大きな損失を与えた。この中国への過度な依存が、日本が中国に忖度するに至った根源ではないだろうか。

新型コロナウイルス対策における日本と台湾の初動を比較すると、大きな違いがあることがわかる。台湾の厚生労働省に相当する衛生福利部は、1月25日に中国大陸からの入国と入国許可申請の受け付け停止を決めた。

一方、日本は2月1日になってようやく中国からの入国を条件付きで制限し始めた。しかも、入国禁止となるのは過去2週間以内に湖北省への滞在歴があるか、湖北省発行のパスポートを所持している外国人のみだ。その後、浙江省への滞在歴がある外国人も入国禁止措置の対象となった。2月23日現在、全面禁止措置はとられていない。

そのような中、日本国内では感染経路が不明な感染者の報告例が相次いでいる。このような状況を見て、訪日外国人第3位の台湾では2月14日に「日本では市中感染がすでに発生している可能性がある」として渡航警戒レベル3段階のうち最も低い「1(注意)」を発布。さらに22日に警戒レベルを「2(警戒)」に引き上げ、現地では日本への渡航を自粛するムードが漂っている。

台湾からの訪日客も減少すれば、日本のインバウンド市場にはさらなる影響が出る可能性があるだろう。(台湾「今周刊」2020年2月15日)

台湾『今周刊』
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